いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】"過去形で語られる幸福"に目がない人にお勧めの映画「横道世之介」

評判がいいのは知っていたけれど、噂にたがわぬ良作。
まず目を引かれるのは80年代末の再現性の高さ。女の子のアラレちゃんメガネだとか、メイク、髪型まで、本当に忠実に再現している。映像の粗さも相まって、本当に「その当時の映像」にしか見えない。その力の入れように感服した。


とくにこの映画、ぼくのように「過去形で語られる幸福」に目がない人にはタマらないだろう。
主人公は、80年代末に長崎から上京した法政大生の横道くん(高良健吾)なのだけれど、映画はあくまでも今(少なくとも2000年代前半?)の見地から、彼を振り返る形で展開する。画面上では、横道くんと周りの人間たちによる幸福な青春が展開する。けれど、それはあくまでも「過去形」においてなのである。
天真爛漫な横道くんと彼に振り回される周り、あるいは彼と彼を振り回す周りの、幸福な営みが幸福そうにみえればみえるほど、それはもうそこにないものなのだと、せつなくなってくるのである。


この映画のせつなさは、横道くんが名もない一般人であることにも由来するだろう。彼女の祥子さん(吉高由里子)は、彼のことを「本当に普通の人だった」と振り返る。横道くんは同じ名前がタイトルとなるドラマ『半沢直樹』の半沢のような英雄ではないし、多くの人に影響を与えたわけでない。この映画は描くのは日常の些細な出来事であって、横道くん自身も普通の人だ。
彼を心に留めるのはきっと、彼の回りにいたごくごく一部の人間である。けれど、彼は周囲の人間の心の中で、ずっと笑い続ける。そうした些細な形で人々の心の中に残るというあり方に、心揺さぶられるのだ。