いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

上野千鶴子「幸せでしょう?」発言への見解

社会学者・上野千鶴子の語り下ろし(?)のコラムが賛否を分けている。
「女子力を磨くより、稼ぐ力を身に付けなさい!」上野千鶴子さんが描く、働く女の未来予想図 - Woman type[ウーマンタイプ]|女の転職@type

まずはこちらをご一読。


ぼくの感想としては、総論としては納得できるところが多いのである。
安倍内閣が女性を活用するとしているが、それは「正規の総合職として男並みに働かせて使い倒すか、非正規の労働力として使い捨てるか」の2通りであると、上野さんは指摘する。
さらに、総合職になれても女性は結婚・出産を捨てキャリアをとるか、キャリアを捨て結婚・出産を取るかの2択を迫られる。
出産した女性の多くはキャリアを諦めなければならず、また時短制度を儲ける企業も増えたが、多くでそれは「二流の労働者」への格下げなのだという。出産し、なおかつ元のキャリアに戻れるのは親の援助が求められるレアケースで、「日本企業の多くはいまだに男社会のルールを変えず、『オレたちのルールに従えるなら、お前たちも仲間に入れてやってもいいぞ』と女性たちに言っているだけ」だと、喝破している。
男性の平均年収も下がっており、専業主婦などに憧れず、これからは女子力よりも稼ぐ力を身につけろ、と上野さんは若い女性に訴えている。

なるほど、と思う。この総論にぼくはあまり異論はない。というより、女性の労働市場についてぼくは門外漢なので、実際にこの現状分析が正しいのかわからないので、「聞いた限りは納得できる」といった程度か。ここらへんは、積ん読している『女たちのサバイバル作戦』を読んでおきたい。



"火種"となっているのは、主に次の段落。

なんだか暗い話になっちゃったわね(笑)。今の日本が成長社会ではなく、“成熟社会”に入っているのは明白な事実。人間の一生に例えれば、穏やかな老後に入りつつあります。だから、現在20代や30代の若い女性たちも、ゆっくりまったりと生きていけばいいじゃないですか。成熟期の社会では、皆が髪を振り乱して働き、他人を蹴落としてまで成長していかなくてもいいんですから。賃金が上がらないといっても、外食せずに家で鍋をつついて、100円レンタルのDVDを見て、ユニクロを着ていれば、十分に生きて行けるし、幸せでしょう? 東日本大震災の後、日常が何事もなく続くのが何よりの幸せだと多くの方々は痛感したはずです。


※強調引用者

キャリア志向でないなら「ゆっくりまったりと生きていけ」るというのは、フリーター誕生時の80年代に流行った古い二項対立である。そのあとやってきた日雇い労働に追われるフリーターを見たがゆえに、多くの就活生は総合職になんとかしがみつこうとしているのではないか?
また、「外食せずに家で鍋をつついて、100円レンタルのDVDを見て、ユニクロを着」ることも悪くはない。
けれど、上野さんには果たして、3夜連続パスタだとか、TSUTAYAの発掘良品の棚で借りるかどうかを迷って延々と立ち尽くす、といった経験はあるのだろうか。
"それだけ"しかできない人と、もっとグレードの高いこともできる上に"それも"できる人とでは、話が大きく違うではないか。
また、満足している状態と耐え忍んでいる状態も、光景としては似ているかもしれないが、違う。それをひとまとめに「幸せ」にまとめられるのは、たまらない。
フェミニズムは、あらゆる「決めつけ」から女性を解放する運動だと、個人的に思っている。その第一人者から、こうして「幸せ」を決めつけられることに、なんとも腑に落ちないものを感じる。


もっとも冒頭で述べたとおり、現状分析に多くを割かれる総論として間違っているとは思えないのである。それに、この"火種"となった部分は、全体を通して読むと実はなくてもいい。
ではなぜ、こんなことを言ったのか。それは段落冒頭の「なんだか暗い話になっちゃったわね(笑)」がヒントだと、ぼくは考える。
要するにこれは、上野さん流の「リップサービス」なのである。現状としては「暗い話」ばかりになったが、こういう考え方もできるよ、という世辞なのだ。その世辞の部分が炎上するというのはなんとも皮肉な話であり、きっと口が滑ったのだろうと思うのである。いや、思いたい。

ただ、読者からは総論として賛同する意見もあり、そうした反応をみるにつけ、耳当たりがいいと思ってかえって「ムカつく話」をされるより、「暗い話」だけでよかったのでは、と思った。