いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】最高に胸くそ悪くなる映画「ファニーゲーム」(1997年)

http://m.youtube.com/watch?v=bb0XidI9lsY&desktop_uri=%2Fwatch%3Fv%3Dbb0XidI9lsY:Movie


97年製作のミヒャエル・ハネケファニーゲーム」。
避暑地にバカンスに来た家族3人を襲う若者2人による凶行を描いている。


胸くそ悪くなる映画である。なによりも不快感の募る最初のポイントは、家族と男たちの遭遇シーンだ。
彼らの凶行は、ほんのささいな「頼み事」からスタートする。2人は、一見物腰は柔らかく貧弱だ。快く家族は応じるのだけど、観客は徐々に、その違和感に気づかされることになる。

けど、その違和感にも最初は、ちょっと無神経で図々しいだけなのかな、とさえ思わされる。
しかし、徐々に傲慢になっていく頼み事の内容と、彼らの所作に秘められた不快さにおいて、観客は次第に気づかされる。彼らは天然などではなく、そこには秘められた、けれど明確な悪意があるのだと。


映画は、その「現場」をほとんどカットを切らず、長回しで撮って行く。その「定点観測」は効果的で、男たちと家族の関係は、見ていた白がかすかながら、でも確実に黒に変わっていくようなグラデーションをなして悪化していく。それに観客は戸惑うのだ。どうして? いつのまに? こんなに不穏になってしまったのだろう、と。
その様は、まるでごっつええ感じの傑作コント「旅館」に似ている。
http://m.youtube.com/watch?v=sKS31KLYJA8:Movie


真綿で首を絞めるようなささいな悪意の総和に耐えられず、善良な一家が反発したときーー邪悪なファニーゲームはスタートしてしまう。



胸くそ悪くなるもう一つの原因は、彼ら犯人の外見にある。どうみても運動のできなそうな小太りと、ガリガリの短パン野郎なのである。
絶対的な運動の能力ではおそらく平凡か、それ以下のはず。彼らは彼らの作り上げた特殊な状況において、暴君として振る舞えてしまう。
けれどそれは彼らの相対的な強さにすぎないのである。ぼくもいい歳だが、映画をみながら「こいつらボコボコにしてぇ」と思わされたのも久々である。


胸くその悪くなる理由はまだある。それは、この悪夢のような映画に、カタルシスが用意されていないということだ。観ればわかるが、観客はさまざまな手法で「イキかけ」の状況を味わうことになる。


そして気づかされるのである。この監督は明確な悪意をもって、「不快な映画」を作ったのだ、と。そして、監督はおそらくこう思っている。どんなに酷いことがあっても、別にいいだろ? 虚構なんだし、と。なんという悪意だ。。。
けれど、意図せずして不快な映画の数倍も計算され、洗練された不快を目の当たりにして、この映画を真っ向から嫌いになれずにいるのも、たしかなのである。