ごく一部の超富裕層が地球周辺に打ち上げられたコロニー「エリジウム」に移り、その他大勢の貧困民が荒れ果てた地球に取り残された後の22世紀の超格差社会を描いたSF大作。
観客はまず、工場で働く主人公・マックス(マット・デイモン)の視点から、ディストピアと化した地球をまざまざと見せつけられる。いわば地球全体がスラム化し、あたりは落書きだらけ。病院は患者が殺到しほとんど機能しておらず、役所では古ぼけたロボットの冷酷な対応が待っている。もちろんそんな世界の工場の待遇がいいわけなく、ワタミも真っ青なブラック企業(労災なんかおりないからね♪)だ。とはいうものの、工場シーンだけは現代でも全然ありえんじゃんというレベルで、帰納的に現代の工場(とくにプレス工場的な)の悲惨さを思い至るのである。
この工場で起きたある事故をきっかけに、マックスは一生移住不可能と思われたエリジウムへの「密航」を決意する、いや、決意せざるを得なくなる。
『第9地区』の監督というだけに、廃墟や飛行機のデザイン、あるいは風船のようにはじけるタイプの人体破壊描写などへの独特のこだわりは継承されている。
- 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
- 発売日: 2011/04/21
- メディア: Blu-ray
- 購入: 2人 クリック: 4回
- この商品を含むブログ (48件) を見る
ただその一方で前作『第9地区』にはなかった概念、タイトルにもなり作品のキーといえるエリジウムの描写が弱いというか、いまいち薄いのである。
映画はマックスの個人的な理由による冒険が、いつしかエリジウム内での政変と結びつくのだけれど、それ以外ほとんどこのコローニーの内情は描写されない。エリジウム市民がどれだけ富を独占し、むさぼっているのか。それがよくわからないのだ。
申し訳程度に、ロボットがさしだすシャンパンのお代りをジョディ・フォスターが無下に断る、というシーンがあるが、それだけでは寂しいだろう。富の配分はおそらく地球はエリジウムの1%もないかもしれないが、描写に関しては地球の方が圧倒的に豊かである。エリジウムの防衛機能もざるのような気がしてならない。なぜこんなざるなのに、今まで地球から侵略されなかったのか。
また結末にも腑に落ちない点がある。はたして人類はあれで幸せになるのだろうか? もしかしたら、あのあと伊藤計劃『ハーモニー』的なディストピアに向かいそうな気がしないでもない。それを確かめるためにも、劇場へ駆けつけることをお勧めする。なにせこれは『第9地区』の監督の作品なのだから。
- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/08/01
- メディア: Kindle版
- 購入: 5人 クリック: 29回
- この商品を含むブログ (24件) を見る