Twitterでの画像炎上がとまらない。まるで攻殻機動隊の世界かのように、全国で、まったくの他人同士が、まるで示し合わせたかのように次々と同じような画像を上げ、炎上している。笑い男か誰かに電脳をハッキングされているようだ。
それはともかく、最近は画像のバリエーションも富んでいる。先日は、回転ずし屋さんに客として訪れ、各テーブルに置いてあるしょうゆ差しをチューチュー吸うヤツまで現れた。このしょうゆ差しチューチュー野郎は、これまで続いているバカによる冷蔵庫ダイブとは一線をかす、一連の画像炎上の本質をついた、非常に巧妙でずる賢いヤツだと思う。
というのも、一連の画像がなぜ炎上するのかというと、そこには日本人の「清潔感」が関与している。
冷蔵庫画像が炎上するのは、もちろん、冷蔵庫が人の入るものではないからである。それはわかる。アルバイトが不適切な行為をしているから。それもわかる。
しかしそれら以上に、彼らが冷蔵庫に入ることで燃え上がるのは、冷蔵庫に彼らが入ったことで食品が「なんとなく不潔」にみえるからだろう。
コンビニのアイスの冷蔵庫に入ったって、商品の蓋を開けたりでもしないかぎり、彼の体がアイスそのものには密着しない。接触するのは外装までである。しかし、見る者には彼に触れたアイスは「なんか不潔」に思えてしまう。
人間の清潔感というのは、必ずしも客観的な事実にもとづいてはいない。どんなにゴシゴシ洗おうと、手のばい菌は減りはしてもけっして0にはならない。それでも念入りに洗ってしまうのは、イメージの問題なのだ。みな、「俺はゴシゴシ洗ったぞ」という自己暗示をかけたいのだ。
そういえば、今日また新手の(といって画像自体は5月ごろアップロードされていたらしい)騒動が起きていて、公園の水道の蛇口をケツの穴にさした(ように見える)画像をあげた大学生が叩かれている。この公園がどこなのかまだ特定されておらず、ネットではもう公園の水は飲めないといった悲鳴が上がっている。
たしかに彼のケツは清潔とは言い難いだろうが、公園で野ざらしになっている水道の蛇口など、もともと衛生的にどうなんだ、という話である。見ていないところで野良犬がベロベロやっている可能性だってあるではないか。
しかし、画像で騒いでいる人々は、たぶんそれは気にならないのである。というのも、それは自分が見ていないから。
そう、すべては可視化に集約される。画像という「事実」として見せつけられた時、我々の鈍い清潔感は、ようやく頭をもたげ、遅ればせながら警報を鳴らし始める。でもそれは、イメージにすぎない。
冒頭で書いたように、しょうゆ差しチューチュー野郎が巧妙でずる賢いと思うのは、こうした日本人の清潔感を弄んでいるところにある。黙ってチューチューするなら何も起きなかっただろうが、画像として提示されるからオオゴトになる。
可哀そうなのは店の側である。この画像の現場は愛知の店舗とわかったそうなのだが、わざわざ同県の36店舗のしょうゆ差しすべてを洗浄し、醤油も入れ替えたそうだ。どれだけお金と手間がかかる作業だろう。安い商品を提供してお客さんに還元するつもりが、お客の方も低レベルな奴がやってきて、結果的に無駄な経費がかさんでいく。これでは経営者が浮かばれない。
しかし、ここまで見てきたように、しょうゆ差しチューチュー野郎を生み出し、飲食店に少なからぬ負荷がかかっている原因のその一端には、我々の「清潔感という名の錯誤」があるということは、いくら強調してもしすぎることはないだろう。
このしょうゆ差しチューチュー画像の恐ろしさは、いとも簡単にできてしまうというところにある。たとえば、ライバル店の評価を貶めようとしたとき、相手店舗にひょいっと乗り込み、店員に隠れてチューチューすれば完了なのだ。こんなこと、防ぎようがないだろう。
これから疑心暗鬼になった飲食チェーンが、トッピングをすべて商品と付属させるという行動にでるかもしれない。また、客の不穏な行動をいち早く察知してやめさせるべく、私服警備員を巡回させる可能性もある。
いったいどんな国だよ。