いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】ハード・ラッシュ ★★★☆☆

かつて、依頼された荷物を必ず密輸する「伝説の運び屋」と謳われた男クリスは、足を洗って家族とともに平和な生活を送っていた。しかしできの悪い義弟が密輸に失敗し、あろうことかクリスの妻、息子たちが危険にさらされてしまう。家族を守るため、彼は密輸に一度きりのカムバックを果たす。原題のContrabandは文字通り「密輸」を指す。こっちの方がわかりやすい。

主演のマーク・ウォルバーグは、日本でも大ヒットした「テッド」での大人になりきれない情けない中年の印象が強いが、本当はこういう「脛に傷がある男」の方が似合う。物腰は柔らかいけどガタイがいいのでちょっと怖いのだ。

「伝説の運び屋」という売り文句で、てっきりどんな奇想天外な密輸隠ぺいテクニックが観れるだろうと思ったが、結論から言うとそれだけを期待して観るとやや肩透かしかもしれない。この映画の真の焦点は実はそこではない。実は武闘派のクリスがハードなミッションをこなす、いってしまえばオーソドックスなアクション映画だ。


ストーリーは大変わかりやすく、適度にほっこりし、適度にハラハラする、非常によい湯加減。
敵が怖くなさすぎるというところが気にならなくもなかった。特に、アメリカでクリスを脅している側の人間たちのユルさは異常。ブリッグスという男が主要な敵役の一人なのだが、彼は主人公にスゴむたびに逆にボコボコにされるという世にもまれな敵役である(しかも、彼も彼の仲間もやり返さない)。ちなみにブリッグスを演じているのは、息子のためにテッドを誘拐した頭のおかしい父親役の彼である。
もう一人端役でいうと、貨物船の船長をやっていたのはたぶん「マイレージ、マイライフ」で解雇される役の俳優で、あの映画と同様に今作でもいい仕事をしている。

難なく成功するかと思われた密輸ミッションはしかし、そのプロセスである黒幕の陰謀、そして底なしのアホと思われる義弟の暴走により二転三転していき、クリスは何度も追い詰められてしまう。密輸品を乗せるパナマの地についてからの、予定の変わりまくりには、めちゃくちゃだわと半分笑っていたが、ハラハラさせられたことも確か。


もう一つ印象に残っているのは、クリスともう一人の男に正反対のメッセージを送っていた密輸の元締め(?)の言葉だ。
先述したようにクリスの運び屋の腕はピカイチで、おそらく密輸は続けられたが、彼は彼の意志で足を洗った。そんなクリスに冒頭でこの人物は、「能力があるやつはその能力を活かさなければならない」と語り、運び屋に復帰させようとする。
一方、この人物は運び屋に向いていないとされる別の男には「身の程を知れ」と冷たく吐き捨てる。
ここには、アメリカ的な能力主義が流れている。ここ最近の自問自答型アメコミヒーロー映画でたびたび語られるているが、才能がある者はその才能を活かさなければならない。それが才能ある者にとっての「義務」なのである。一方、才能がないのにぐだぐだ続けるのは、それだけで「罪」に等しい。


クライマックスは、アメリカンドリーム万歳! とばかりに何もかもが不問に付され、強引にハッピーエンドになる。それもアメリカっぽかった。