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85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【書評】サブカル・スーパースター鬱伝/吉田豪 ★★★★☆

サブカル・スーパースター鬱伝

サブカル・スーパースター鬱伝

プロインタビュアーの吉田豪氏が、周囲の人間を観察するうちに気づいた「サブカル系は四〇歳になると鬱になる」という仮説をたしかめるべく、リリー・フランキー松尾スズキみうらじゅんなど当代を代表する11人のサブカル有名人におこなったインタビュー集。これまた当代きってのサブカル雑誌「クイック・ジャパン」誌上で連載された「不惑のサブカルロード」を書籍化した一冊。

タイトルからしてあったりまえだが、全体的にどよーんとした空気がただよっている。本書を読む限りでは、だいたいみな30代後半、とくに四〇代になる直前くらいに精神的に地獄の底へ突き落されているようだ。
もちろん「サブカル系は四〇歳になると鬱になる」という仮説を医学的に厳密に検証していくわけではなく、これは話の枕と考えておいた方がいい。読んでみると、サブカルにハマった"から"鬱になっちゃったという因果関係なのか、サブカルにはまるようなやつはもともと鬱になりやすい因子があるんだという相関関係なのか、はたまたサブカルと鬱に関係ないよという話なのかは、正直わからない。
ちなみに巻末には精神科医香山リカとの本書初出の対談が収められていて、彼女がちょこっと精神分析的な方向からコメントを加えているが、これも参考程度に。
けど、そういうことはどうでもよくて、やっぱりこれだけの濃いメンツに、自分がかつて苦しんでいたわけ、あるいは今苦しんでいるわけを聞いているのだから、面白くならないわけがない。声出して笑ってしまった。こう笑えるのも、評者がまだまだひよっこというか、単純に年齢的に遠い先と思えているからかもしれない。
そんな中でも唯一、歌人の桝野浩一の回だけはちょっと笑えなかった。正直に告白すればドン引きした。たぶん、彼の淡々とした語りによるところもあるんだけれど、現在進行形でかつ経済的な話というのは、鬱とはまたすこしちがった重たさがある。


また、少なくともぼくの読んだ吉田氏の本の中ではほとんど初めて、吉田氏本人が論題にあがっていたという点でも本書は興味深い。
他人の話を聞く=自分の話を書かないという仕方で、サブカルスターダムにのし上がってきたのが吉田豪だと思うのだけれど、本書はこれから40代を向かえる吉田氏にとっての心構えという企画意図が背景にあったこともあるが、サブカルの先達たちが吉田氏の鏡像のような存在となり、彼の姿を映してしまうところが何か所かある。
特に、初っ端のリリー・フランキーの回は、吉田豪の師匠にあたるということもあってか真正面から切り込んでいる。
仕事に飽きてくるという話題の中で。

リリー 取材相手が全員山城新伍や梅宮辰夫じゃないわけじゃん。そうなってきたとき、やっぱ飽きるよ。自分が夢中になれないから。夢中になれてないのに仕事でやると、自分の思いがない原稿を書くことによって心に無常感が出てくるんだよ。(中略)ただ、豪には無常感がもっと進歩した小バカ感っていうのがあるんだよ。すべてのものを小バカにしてる。その代わり、自分をむき身にすることを極力ケアしてるんだよね。

pp.26-27

「ただ、豪には〜」以下の発言は、豪さんだけでなくある世代から下のほとんどをはからずも狙い撃ちにしちゃってる感じがして、ドキっとしたがそれはともかく。吉田氏がこれに「ああ、文章に自分のことはまず出さないですね」と返してからのリリー氏。

リリー でもそれを出さざるを得なくなってきてるでしょ。 なんでかっていうとほかのことすべてに飽きてて、もうあとは自分しか残ってないから。いままでは、なんか小バカにしながら、それをもっと大きな楽しさに変換してたんだと思うけど。もう豪の立場的にも、残ってるタマにしても、小バカにできなくなってきてる。小バカっていうの強い者に対してするもんであって、強い者にするならパンクだけど、弱い者にしたら、ただのいじめでしょ。だから楽しめんくなっていくんですよ。

p.27

ここになるほどなぁと思うわけだ。現時点で吉田氏の仕事が「ただのいじめ」になっているとは思えないけれど、本来サブカルとして傍流に虐げられていたものが、膨張していき大手を振って歩きだす様――その姿ほど醜悪なものはないのかもしれない。ヴィレバンで「ちんかめ」の見本を開いてワーキャー騒いでるそこのバカップル、てめーらのことだよ!


ということで、吉田氏の今後の仕事にどういう影響を持つのかわからないけれど、あとから振り返ったときに吉田豪の仕事がここで変わったなという転換点になりうる一冊なのでありますた。