いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】リミットレス ★★★☆☆

『世界に一つのプレイブック』で見事アカデミー主演男優賞にノミネートされたブラッドリー・クーパー。あの作品でのロバート・デ・ニーロとのなかなか上手くいかない父子関係というのは、男にはわりかしグッとくるものがあると思うのだが、実は彼とデ・ニーロがタッグを組んだのはあれが最初ではなく、本作である。



ブラッドリー演じるエディ・モーラは、書けない小説家だ。じゃあ書けたことがあるのかというとそれがなくて、我々のように「俺だって頭の中にはとんでもないアイデアが詰まっているんだ」といつまでもキーボードとにらめっこする痛い人種なのである。
彼女にも捨てられいいかげんヤバいというとき、元妻の弟とばったり再会し、NZTという薬をもらう。
このNZT、普段は20%しか使っていないという人間の脳ミソを100%活性化させる新薬で、いわば一時的に超絶に頭が良くなってしまうのだ。飲んだエディは今までのくすんだ日常のモヤが啓けたかのように、あっという間に傑作小説を書き上げてしまう。
この映画は、NGT服用中の脳ミソフルスロットル状態の描写、いわゆるトリップ状態の描写が面白い。通奏低音のようにたびたび使われる際限ないかのような(まさにリミットレス!)ズーム映像は、集中力が高まっている描写であるとともに、観ているこちらをも切迫した気持ちに襲われる。
頭がよくなっている状態の彼が初めて小説を書き上げた後、「小説なんか書いている場合じゃない」と早々に筆を折ってしまうところは、文系人間からするとすばらしいブラックジョークだった。


薬の効能は約1日で、次の日目が覚めるとまたもとの鬱屈とした生活に戻ってしまう。そのため、毎日のようにNZTを服用を続けた彼は、次第に記憶の不連続性や体調不良といった薬の副作用に蝕まれていく。そして、10年ぶりに再会した元嫁は、NZTの副作用でひからびたボロぞうきんのような変わり果てた姿に……。

全能感、集中力、そしてそのあとボロボロになる副作用……そう、ここまで読んで気づいた人もいるかもしれないが、


キミそれ、ヒロポンやないか。
※昔、夜なべする受験生が接種していたという覚せい剤


NZTがただの覚せい剤じゃねーかというツッコミはおいとくとしても、この映画のここからおかしな方向に転がっていく。
元嫁をボロボロにしやがったNZTの作り手をとっちてやるぜええええという方向へ盛り上がっていくと思いきや、そうでもない。物語はここから、デ・ニーロをエセマイケル・ダグラスに迎えてのエセ『ウォール街』とかしていく。話が膨らみそうなところは膨らまず、予期していないところがぷっくりと膨らんでいくのだ。

老練な投資家を演じるデ・ニーロの存在は、知識も経験もなく、脳ミソの過剰だけで台頭してきたエディへのいわばアンチテーゼとなっている。
けれど、結末でエディが彼をどう超克するのか、はたまたエディはどのような代償を負うものなのかと観ていたら、唖然とするものがある。この映画自体がNZTの効用が切れてないうちに書かれてしまったかのような、まさにリミットレスな、底が抜けた結末である。


とまぁ、映画として必ずしも10点満点ではないけれど、ホームレス仕様、オールバック仕様、そしてヤッピー仕様と、3タイプのブラッドリーくんが拝めるので、彼に胸きゅん中の人は、みたらいいんじゃね。


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