IWGPシリーズや『4TEEN フォーティーン』などで知られる直木賞作家の石田衣良が、就活に挑む大学生らを描いた小説が、この『シューカツ!』だ。

- 作者: 石田衣良
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/03/10
- メディア: 文庫
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本書はこれまえでぼくが読んできた「就活小説」の中でもっとも、就活を明るく描いているという点が特徴的。
それは、主人公らの「立場」としてわかりやすく現れている。
主人公らの学歴が私立の名門「鷲田大学」で、全員が大手企業しか狙わない、いわゆる「大手病」にかかっている。その上、男女でキャッキャウフフしながら就活チームをたちあげているのである。そのなかでは当然、ほのかな恋愛もあったりする。この時点で、人知れずESを埋めている孤独な就活生たちから怨嗟の声が聞こえてきそうである。
そう、この小説は「すべてを独占しようとしている者たち」、我々の用語で言えば「リア充」の就活を描いているのだ。
と、この時点でぼくは敵意むき出しで本書を手に取ってしまったが、そのような感情を抜きにしても、本書は石田の作品の中でもあまり出来のいい部類に入るとは思えない。
話の展開は単調で、例えるならディズニーランドの「イッツ・ア・スモールワールド」に乗っているかのように、インターンしました、OB訪問しました、面接いきます、と就活で出くわす様々なイベントを淡々とこなしていく感が強く、その分リアリティは希薄だ。
また、就活プロジェクトチームというけれど、この7人がどのようにして出会ったのかわからないぶん、主人公以外の人間に感情移入しづらい。「メンバー全員がそろった時点から描かれる麦わら海賊団」といえばわかりやすいだろうか。
石田衣良は、『IWGP』シリーズなどでキレのある文体を魅せていた前期と、テレビでみる石田そのままのくっさい恋愛小説を量産する後期のそれに大別できると思うのだが、この小説はそのどちらにもあてはまらない。前期のようなキレもなければ、後期のような殴りたくなる野暮ったさもなく、輪郭がぼやけたイメージだ。
最終的に、主人公の進路はある「2択」に絞られ、その選択は読者の想像に任せるという仕方で終える。けれど、その2択というのが、ぜんぜん2択になっていないのだ。
世の就活生の多くは、「希望する業界じゃないけど大手」の内定と、「希望する業界だけどブラック企業」の内定のどちらかで悩むのである。それはつまり、希望外の業界に入って夢を捨てるか、希望の業界に入って自分の人並みの幸せを捨てるか、という究極の選択なのである。
けれど、この小説の主人公はケーキを食べるかパンを食べるかを悩むのだ。
ぼくはそんなもの、就活だとは認めたくないと思うのだが、どうだろうか。