いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

なぜインドで残忍な性犯罪が起きているのか?

昨年末に、インドのニューデリー市内を走行中のバスの車内で女子大生が集団レイプされ、2週間後にシンガポールで亡くなった。
このニュースが報道された後、インドでは性犯罪の厳罰化や対策強化を求める市民により、連日大規模なデモが起こったという。
このニュースは日本でもちょっとした話題になった。
その後も、インドでのおぞましい暴行事件のニュースが連日伝えられた。
http://news.livedoor.com/article/detail/7299105/

いったいインドはどんな国なのだろうと考えさせられる話題なのだけれど、その一方で、こういう記事もある。

インドでは女性と男性が手をつないで歩いたり、体を少しでも触れ合わせる行為は、それが意図的じゃなかったとしてもよく思われない。
つまり、混雑していなかったとしても男女が並んで座席に座ることはよく思われないし、肩や肘が触れるのをお互いに防がなくてはならない。それゆえ、日本のように混雑時だけ女性専用車両があっても困るのだ。どんなときも触れ合ってはならない状態なのだから。
そうなると、男女が少しでも触れることなく列車に乗る必要がある。女性たちは列車に乗り込むと「女性が集まって座っている座席はないかしら?」と、女性が集中して座っている座席を探して座るのだ。

インドの列車では女性専用席が自然とできる - ライブドアニュース

Twitterでこの記事をつぶやいたところ、インドに旅行した経験のある友達から、インドで上の記事のような状態が生まれるのは都市の短距離電車くらいで、都市間をつなぐ長距離鉄道、とくに下等車両はすし詰め状態だ、との指摘を受けた。
たしかにインドの列車といえばイナバ物置みたいなアレだよなーと思い出す。このニュースでいうインドの電車というのが、どこの電車なのかの疑問は残る。
が、ここで考えたいのは「インドでは女性と男性が手をつないで歩いたり、体を少しでも触れ合わせる行為は、それが意図的じゃなかったとしてもよく思われない」という記述についてだ。
このように、日本社会以上に男女の身体接触に敏感なインド社会で、何故に冒頭で触れたような暴行事件が起き、さらに司法権力は無視し続けているのだろうか。

こうした疑問を考える一助となるような記事を見つけた。
インドの性暴力事件について、ヒンデゥー教のカーストという身分制度の観点から解説した記事。

 インドのカースト制度は問題を複雑にしている。「生まれ」によって決定されたジャーティは一生変更できず、男女とも同一のジャーティの者と結婚する義務があるといった考え方が主流になっている。また職業にも制約がある。低カーストは清掃業など限られた職業にしか就けない。
 ダリット(Dalit 「不可触民」あるいは「不可触賤民」)は、インド階層社会の最下部に位置する人々が自らに対して用いる呼称である

http://news.livedoor.com/article/detail/7294117/

(性犯罪の)被害者がダリットである場合、被害者自身やその家族が声をあげず、低階級層の人々に対する当局の無関心も加わって、事件はうやむやのまま放置されることが多い。いくつかの事件では、暴行犯は捜査が及ぶのを恐れて被害者を殺害している。

同上

この記事の中ではさらに、ワシントン大学歴史学助教授が興味深い指摘をしている。

ダリットなど低カーストの女性の労働者としての存在は、性的な可用性をほのめかしている。カースト階層の構造が常にセクシュアリティーを確保した女性(上位カースト貞淑な、妻/未亡人)と性的に利用可能であったダリットなど低カーストの女性の差異化や利害に関わってきた。カースト制度全体にとってそれが必要だったからだ

同上

つまり、上位カーストの女性が丁寧に扱われる分、その反動がダリットなどの低カーストの働く女性に向けられる、というのだ

この構造には、どうしてもイギリスの18世紀から19世紀にかけてのヴィクトリア朝を重ね合わせてみたくなる。
表で厳粛な性道徳が求められれば求められるほど、裏では売買春がはびこるという二面性。インド社会が、その二面生を上位カースト、下位カーストの女性の分離によってなし得ているとしたら。。。
また、この記事に出てくる国際的な人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチHRW)は「レイプが北部ビハール州と南部タミルナード州の地主や権力者たちによってダリットを抑えこむ手段として用いられた事例」を報告している。


いずれにせよ、性犯罪とカースト制度の結びつきについて、大変説得力のある記事だ。
しかし、この仮説の正否をたしかめるには、インドにおける性犯罪の被害者のカーストを調べなければならないだろう。
また、この説ではカースト制度のないインドの隣国パキスタンで性犯罪被害が多いという現象は、説明できない。

そのため留保が必要だが、ただ一つ言えるのは、民主的国家の運営においては、カーストのような身分制度はどう考えても「折り合いが悪い」ということだ。低カーストの女性の訴えが不問に付されるということが、性犯罪を増長させていることは間違いないだろう。


また別の記事が、インドでの性犯罪の増加を伝えられている。

2011年に全国で警察が立件した性的暴行は2万4206件で、統計を取り始めた1971年の2487件からほぼ10倍。インド東部コルカタに拠点を置くNGO(非政府組織)「スワヤム」は、05〜09年の犯罪率の増加が16%だったのに対し、性的暴行を含む「女性への暴力」の発生率は31%増加したと警告しています。

女性暴行に抗議/団体・学生 警官隊ともみ合いに/インド - ライブドアニュース

ただこれは、性犯罪が親告罪であるという性質からして、実際の犯罪が増えたのではなく、女性が訴えを起こした数が増えたということの可能性もある。
今回の大規模なデモも、女性が声をあげやすくなっているという社会の兆候であるならばいいのだが。。。