いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【書評】2010年代の“ウェブ進化論“〜田端信太郎『MEDIA MAKERS』〜9/10点

年の瀬ということでそろそろ書評に帰ってこないと映画ブログになってしまう! ということで書評。

MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体

MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体

しかし、今回は書評に苦労した。というのも、あまりに紹介したい内容がありすぎて、収集がつかないのだ。例えるなら、ロッククライミングでいうところのホールド(ぶらさがるための取っ手の部分)に似ている。この本には、いろいろな方向に「掴みたくなる魅力的な”取っ手"」がいっぱいあるから、どこをどう登っていくかと目移りしてしまうのだ。
ただ、書評する価値のない本ではなく、書評する価値がありすぎる本だから書かないというのもどこかもったいないので、なんとか書いてみた。


本書を著したのは、「2ちゃんねるまとめブログから、超高級ファッション誌まで」関わってきたという自負のあるという田端信太郎という御人。

いったいどのような本なのか。
帯には「メディアに踊らされずにメディアで人を踊らせる法」と、意識の高い文字が踊っているが、本書はそのような実戦に向けて「どうすればいいか」を説くハウツー本的な側面もある。
こうしたウェブ関連のハウツー本だと、毛嫌いする人がいるかもしれない。何を隠そうぼく自身、エスイーオータイサクだとか、「◯◯するための×つの方法」といった「読まれるブログの書き方」なるものは、あまり参考にしない。ブログなんて好き勝手に書けばいいと思うし(それがブログのいいところだ)、もしそれだけの内容なら、書評なんて書く気にならなかっただろう。
けれど、「どうすればいいか」を教えるためにまず「どのようになっているか」(=影響力の正体)を説明しないといけない。そういう意味で、この本はハウツー本であるとともに、きわめてわかりやすい2010年代現在におけるインターネット概論になっているといえる。ぼくならば、おおげさでなく2010年代の“ウェブ進化論“とキャッチコピーをつけていただろう。巧みは比喩や例え話で、文章もわかりやすい。


ただ、本書はネットメディアだけを扱っているわけではない。さまざまなメディアを渡り歩いてきた著者だけに、この本では、ネット文化が普及した現代のメディア環境の中で、ネットメディアだけでなく、旧来のマスメディア(主に雑誌、新聞、テレビ)も議論の枠組みの中にマッピングされていくのだ。本書の達見は、あらゆるメディアを分類せず、むしろ並列(対置)さえることによって、より普遍なメディアの本質を浮かび上がらせるところにこそある。
その典型的な例といえば「ミシュラン」と「食べログ」の対比だろう。本書は「ミシュラン」だけをとりあげるのでも、「食べログ」だけをとりあげるのでもなく、両者を比較することによって相乗効果的に両者のメディアとしての特性がよりいっそう鮮やかに浮かび上がらせている。他にもコンテンツのリニア/ノンリニアという対比など、考えるべき話題が多数。詳しくはぜひ、手に取ってみてもらいたい。


著者は、メディア環境において発信者から受信者へと主導権が移行していると現状を分析する。発信者側の都合などおかまいなしに、何千何万もの社員が働く大手新聞から、「でっかい鼻くそ取れた」という個人のTweetまで、これからは受け手の側が好き勝手に編集し、思いのままに享受していくのだ。その傾向は今後さらに強くなっていくんだろうと、ぼくも思う。これからは、Googleフェイスブックといった巨大なプラットフォーマーの上で、個人メディアからマスメディアまでが並列され、バッチバチにやり合うのだ。
先にも書いたとおり、ブログなんて好き勝手に書けばいいし、ネットはフェイスブックでリア友と近況報告するくらい……そんな使い方だっていいだろう。けれど、もしあなたの中にメディアを作ってみたい、メディアによって人を動かしてみたいという欲がちょっとでもあるならば――この約200ページのどこかに、あなたが、あなただけの頂上を登るための「ホールド」が隠されているはずだ。