いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

行って帰ってくる物語。それだけなのに、面白い。〜ベン・アフレック『アルゴ』90点〜

多くのレビュアーが絶賛しているようにめちゃくちゃ面白い映画です。勝ち戦です。こんなブログ読んでる暇あったらさっさと劇場に駆け付けちゃってください。

アメリカがイランの現行政権の敵である元国王をかくまったことに、イスラム過激派が激怒。人質52人とともにアメリカ大使館を占拠してしまう。しかし、その騒動の中をなんとか脱出した大使館職員6人が、カナダ大使の家にかくまわれていた。6人の存在が過激派側に漏れれば、彼らはおろか人質52人の命も危うい。本作は、彼ら6人を本国アメリカに奪還するためにCIAが実行したある奇想天外な作戦の実話をもとに描いている。


話はものすごく単純で、おそらくこの映画のストーリーが分からない人はいないだろう。話の骨格は、行って帰ってくる、ただそれだけ。もっと短く言えば、これは「奪還」の映画である。

そんなに単純な話なのに、なぜこうも面白いのか。
まず冒頭である。アメリカ大使館の周りが怒り狂った過激派の暴徒で埋め尽くされている。怒れるイラン人と地響きのような怒号。それを大使館の中から職員が不安げに見つめている。ここで我々観客は、演出とカット割の妙で「アメリカ側」の視点を共有してしまうのだけど、このシーンがめちゃめちゃ「怖い」のだ。ホラー映画以外でここまで「怖い」こともそうそうない。怒り狂った人間の群れとは、それだけで「怖い」のだ。

この冒頭部分で、観客はあっという間に「大変なことが起きてしまったのだ」と思わされる。完全に「掴みはOK」なのだ。


大使館が占拠され、脱出した職員の存在が判明。そこで待ってましたとばかりに監督兼主演のベン・アフレック演じるトニー・メンデスが登場する。話は単純と書いたが、そのように見えたのは彼の情報整理がすごく巧いところにもよるだろう。またクライマックス前に、メンデス自身にもう一山葛藤を作り、それを乗り越えさせるという彼の脚本上のエンターテイメント的な嗅覚にも舌を巻く。

終盤には「車のエンジンがかかりそうでかからない……!?」みたいなコテコテの演出もあるけど、それでさえもはらはらどきどきしてしまうのは、そのときすでにこちらがこの映画にのめり込んでしまっていたからだろう。


ジョン・グッドマンアラン・アーキンが演じる古き良きハリウッドの「映画屋」など、魅力的な人物も脇を固めているが、それ以上に良かったのはブライアン・クライトン演じるメンデスの上司だ。今作ではアメリカ国務省から作戦の一部始終を見守っているだけなのだが、作戦が見事成功したとわかったあと、彼が噛み締めるように静かに喜びを表す姿には、熱いものがこみあげてきそうになった。

先の大使館の描写もそうだが、ややアメリカが「大正義」すぎるだろというツッコミの余地がなくもないが、そんなことを指摘しても仕方がないと思えてしまうくらい痛快で面白い。

ぜひぜひ、劇場で。