いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

灰色の街ロンドンで暗躍する老スパイ〜『裏切りのサーカス』85点〜

おとといの『ジェーン・エア』につづいて観たのが『裏切りのサーカス』。

時代は東西冷戦の最中、英国諜報部、通称「サーカス」に、ソ連側のスパイ「もぐら」が20年来息をひそめて潜伏している疑惑が浮上する。前年のある作戦の失敗の責任をとる形で辞職した前代の長官「コントロール」とともに諜報部を去った老スパイ「スマイリー」は、幹部の中にまぎれている「もぐら」狩りに駆り出されることになる。

『ジェーン・エア』は優れた映画だけど好きなタイプじゃないと書いたが、この映画はそれの正反対。というのも冷戦下という時代設定、スパイ、男だらけホモソーシャルのモホモホした会話劇、オールディーズの流れるダンスパーティ、そして灰色の街ロンドン……約2時間ぼくの大好物だらけだったのだ。この時点で、映画の筋がどんなに酷くても50点以上は固い。だもんで評価もたぶんアマアマだ。

スマイリーを演ずるはゲイリー・オールドマン。『レオン』での頭の狂った悪徳デカや、『フィフスエレメント』の横分け野郎の時代からすれば隔世の感だけれど、彼もすっかり老いさらばえた老紳士だ。
彼の役スマイリーは、いわば「サーカス」のOBなんだけれど、組織への愛着や祖国への忠誠はあまり感じられない。胸に秘めたものはあるのかもしれないがそれ以上に、彼は人生に、荒んだ夫婦生活にくたび切っている。「もぐら」狩りの任務を黙々と遂行するが、そこに反共からくる情熱はみじんも含まれていない。後半以降に彼のある語りで明かされることになるが、そもそも冷戦というイデオロギー闘争自体が、彼にとってはバカバカしい茶番劇なのだ。そして、そんな彼の視点に寄り添うこの映画自体が、東西冷戦構造を見つめる目線はシニカルだ。彼は、『アウトレイジ ビヨンド』における北野武=大友の訳を彷彿とさせる。彼も始終くたびれている。何もかもが投げやりだ。それは、彼にとってヤクザ社会自体が、その取った取られたの世界自体が、すでにどうでもいいものに落ちている。


おおむね期待通りだったのだけれど、ただ一点だけ、スマイリーを含む「容疑者」5人の描写、もっといえば彼ら5人の濃厚なホモホモしいやりとりが、ぼくの期待していたほどなかったところが少し残念だ。彼ら5人の人間関係の力学というか、力関係というものがもっと前面にでてくるものかと期待したが、そうはならなかった。監督の描きたいものはそこではなかったということなのかもしれない。
画面上に所狭しと情報が配置され、しかもめまぐるしく場面が変わるから、一度の鑑賞ではなかなか全てを把握することはできない。しかし、わからないからといってうんざりするのではなく、むしろより深くのめり込み、もう一度観たくなる。そんな映画だ。