いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

古谷実のマンガ『サルチネス』のモチーフは北九州監禁殺人か?

古谷実の2年ぶりの最新作。

サルチネス(1) (ヤンマガKCスペシャル)

サルチネス(1) (ヤンマガKCスペシャル)

ネットなどで評判を読むと「またいつもの古谷かよ〜」というがっかりムード漂っているわけですが、ぼくはむしろその「いつもの古谷」と人が名指すものに魅せられているところがあって(あだち充の「いつものあだち」のごとく)、それはそれで万々歳なのですが。
いざ蓋を開けてみたら…



めちゃめちゃ面白いじゃないっすか。

今作はとにかく笑える箇所が多い。それもInterstingではなくあくまでFunnyという意味で。例のなんともいえない比喩であったり、キャラクター同士の掛け合いであったり、わけのわからん展開であったりで、とにかくギャグが満載なわけです。

主人公は今までの古谷作品にはないタイプですよね。『シガテラ』『わにとがげぎす』『ヒメアノ〜ル』は自信がない男だったのに対して、『ヒミズ』の住田くんと今作の中丸は、確固たる自己があります。でも、そんな住田くんとも、ニュアンスがちょっとちがう。ぼくはむしろ「いつもの(後期)古谷」ではないと思いました。


ところで、読みながら気が付いたんですが、このマンガには北九州監禁殺人事件と似ているところがあるんですよ。
北九州監禁殺人事件 - Wikipedia
詳しい説明はウィキに任せますが、この事件がただの大量殺人以上に耳目を集めるのは、ある一家が次第に一人の男の言いなりになっていき、最終的に家族同士で殺し合いを演じるところまでいってしまうところです。
調べるほど、この主犯の男に、言葉巧みに相手を誘導し、逆らえなくなるしていくような一種の催眠術みたいな能力があったんじゃないかと思わされる。
サルチネス』の主人公・中丸には、この主犯の男に通ずるものがあります。わけのわからんことを言っているけれど、確固たる自信のもとに命令するので、周りの人間は逆らえずにいやいやながら「命令」を実行していく。また彼に服従する2人も、谷川は一人では生きていけないダメ人間で、河合くんは下着泥棒を見つかった苦学生で、「服従させられるだけの説得力」があるんですよね。


そして、このマンガと北九州の事件の類似性を一番強く感じたのは、中丸が自分の昼寝している間に300万円を貯めるアイデアを考えとけと谷川に「命令」するシーンです。
冷静に考えれば、寝ている間に中丸をおいて逃げるなり、彼を動けないように紐で縛るなり、とにかくやろうと思えばなんでもできる状況のはずです。でも谷川はしない。いや、できないんですね。もはや彼は中丸に反逆できないようにマインドセットされてしまっているのです。
北九州の事件には、これとほとんど同じシチュエーションがある。

X(引用者注:主犯の男)は殺害現場のマンションに移動した後で「俺は今から寝る。今から一家で結論を出しておけ」「俺が起きるまでに終わっておけ」とY(引用者注:Xに殺された被害者家族であり共犯)らに指示した。

北九州監禁殺人事件 - Wikipedia

このあと、一度は躊躇するものの、Yは実の妹を殺してしまうわけです。Xは目と鼻の先で寝ていただけ、にもかかわらず。


断っておくと、マンガはまだ全編ギャグムードで、怖いことはまだ一つも起きてません。
けれど、比べれば比べるほど、この世紀の猟奇殺人との類似点が見つかれば見つかるほど、これから先恐ろしいことが起きるんじゃないか、そんな期待を感じさせます。
単行本派なのでずいぶん気長に待たないといけませんけれど、ね。