いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

上司に「死ね」なんてふつう送れるか?〜中田宏『政治家の殺し方』書評〜

政治家の殺し方

政治家の殺し方

物騒なタイトルだが、前横浜市市長の中田宏氏本人による、中田市政の回顧録だ。ちなみにぼく自身は横浜市民でありながら、中田さんが何をやっていたかをほとんどチェックしておらず、でもクリーンなイメージやしゃべり方をたまにテレビで見かけてなんとなく好印象を持っていた、というほどのスタンスだ。

本書冒頭で分かるのは、中田氏が市長時代、根も葉もないスキャンダルの数々に悩まされていたということだ。これも不勉強ながら、ぼくはほとんど知らなかった。
本書は、それらが事実無根の誤報であったことを証明するところから始まり、ではなぜそのようなガセネタが次から次へとマスメディアでおどったのか、そのスキャンダルの背後に存在した中田市政のとある「抵抗勢力」への叙述へとつながっていく。本の特に前半部は犯罪ノンフィクションのような趣もあり、読んでいて怖いとさえいえる。映画でもドラマでもない。こんな企みが実際にあるのか、と。

ざっとまとめると、この本は以下の疑問について、一応の「説明責任」を果たしている。

中田市政以前から横浜市にはどんな「利権」が根を張っていたのか?(あるいは地方自治体一般にある問題点)
中田市政は何をどう変えたのか?
なんで急に辞めたの?
特に最後の疑問は誰もが持ってもおかしくないもので、一説にはY150がコケた責任をとったなどと言われている。Y150の失敗についても触れていて、ものは言いようだなーと思うところもあるが、この本を読むかぎり直接的な原因ではなかったようだ。

あくまでこの本は市長から見た「景色」であり、他の当事者からすればちょっとちがうよという反論もあるかもしれないが、読んでいるとこの人は誠実なんじゃないかという予感はしてくる。ほら、そういうのって文章になんとなくあらわれるじゃん。


ところで、ぼくがこの本で一番度胆を抜かれたエピソードは、「死ね」の話だ。
改革派として市庁内にもあった数々の利権にもメスを入れた中田氏であるが、当然内部からも反発が強かったという。庁内LANで送られてくるメールでも批判が押し寄せ、中には「死ね」という文言のメールもあったという。もちろん所属部署、実名入りで。
これにはぼくも目を疑った。中田氏はこれに私企業とちがい「彼らが地方公務員法という法律で守られているから(クビにならない)」と話を続けているが、なんというかその…それ、法律がどうとかの次元を超えてね?いちおう上司である。どれだけ大きな組織でも身内である。廊下ですれ違っていてもおかしくないし、実際にすれ違っているはずの人に、大の大人が、ガチで「死ね」(「氏ね」でもない)なんてふつう送れる?しかも送ったのが自分とわかる方法で。手前味噌だがぼくは匿名でさえ氏ねだとかそういうことは書けない。中田氏は「頭がおかしいわけではない」となぞの擁護(?)をしてるが、いや、この「死ね」メールの人、頭おかしいでしょ。

これは代表例だが、この本を読んでもっともぼくが勉強になったのは、実はこうした公務員の実態についてだ。よくちまたでは民か官か?みたいな議論はよく見聞きする。けれど実際は、目的がちがうとかそういう次元の話を超えて、官というのが特権的で、その特権性ゆえに下手すれば不気味に捻じ曲がった人間性を助長する可能性のある組織なんじゃないか。そういう感想を持ってしまった。