「お、ケビン・ベーコンが出てんじゃん。80分弱か、ちょうどいい時間だな」みたいな軽い気持ちで開いたAmazonプライムビデオでしたが、この映画を観るにはちょっと迂闊すぎました。
本作は記事のタイトル通り、戦地で殺された兵士がどのようにして親元に帰っていくのかを克明に描いた作品。全編もの静かで言い争いらしい言い争いすら起きませんが、腹の底にズシーンとくる作品です。
「テイキング・チャンス」とはそのまんまの意味で、チャンス・フィリプスという兵士を送るから「チャンスを葬送する」というわけです。「テイク・ア・チャンス」というイディオムがありますが「イチかバチか」という意味なのであまり関係はありません。
「戦死者の追悼」の場面はこれまでにも映画でよく見ます。
制服組が家のインターホンを押し、出てきた遺族が手紙を見て泣き崩れるシーン。あるいは、星条旗がかけられた棺が埋葬されるシーンなどです。
本作が描くのはちょうどその間、兵士の遺体がどのように故郷に帰って行くかの部分と言えます。
イラク戦争の真っただ中の2004年、米海兵隊のマイケル・シュトローブル中佐は、同朋が戦地で死んでいく中、米国内で内勤にあたる自分に対してもやもやを抱えていた。
そんなとき、自分と同じコロラド州生まれのフィリップス一等兵の戦死を知る。見ず知らずの若者であり、高官という立場のシュトローブルだったが、意を決して遺体を故郷まで護衛する任務に就きます。
本作はドキュメンタリーではありませんが、チャンス一等兵は実在した人物ですし、彼が故郷までにたどった道程はかなり忠実に再現しているのではないか、と思われます。
シュトローブル中佐の目線から、観客は「遺体の護衛」という知られざる任務を追体験する仕組みになっています。
本作を見ると、アメリカでは戦死した兵士がどれだけ厳粛に、どれだけ敬意をもって扱われているかが伝わってくる。
遺体が帰国し、まず最初に訪れるのは遺体安置センターです。
特に印象的だったのは、遺体を洗うシーン。一体の遺体につき何人ものスタッフが、ついた血や泥を丁寧に落としていきます。映画はその光景をまるでマッサージや愛撫のような優し気な作業として描きます。
それだけではない。遺族に返されることとなる兵士の愛用品、勲章や十字架、ドッグタグなどもきれいにあらわれます。
棺に収まる際に兵士が着ることになる正装も、一目にはほとんど触れない部分なのにセンター内で丁寧に裁縫されているようです。
ただ、戦死者に敬意が払われるのは、遺体が出棺するまでの国の施設の中だけではありません。
シュトローブル中佐は、フィリプスを護衛しながら降り立つ各地で、名もなき一等兵に対して、偶然通りかかった市民らから最大限の敬意を表されることを目のあたりにします。
戦争に慣れてしまっている、と言ったらアレですが、戦争がある国の国民はこういうものなのかなあ、と感心してしまいました。
イラク戦争の是非はともかくとして、「戦争をする国の国民」の態度として、こういうものであってほしいなと思えてきます。
そして、中佐とフィリプスの遺体は数日の旅の末、ついに親元に届く。
ここまでのプロセスを経て、観客は、1人の兵士の死がただの「数字」では到底回収しきれないことを、あらためて思い知ります。
一人の男が、前途がある若者が唐突に死を迎えることは、こんなにも重大なことなのだということです。
この映画は物語に乗せて訴えるのは、単純な反戦や、戦争への扇動ではありません。
あくまで中立に「戦死するとはいったいどういうことなのか」を考えさせてくれます。
惜しむべきはこの映画、HBO制作によるテレビ映画ということのためか、あまり有名ではないのです。
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