いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【書評】構造主義の第一人者の血湧き肉躍る若き日の肖像「闘うレヴィ=ストロース」


本書は、09年に亡くなったフランスの文化人類学の大家で、構造主義の第一人者のクロード・レヴィ=ストロースについての新書である。彼の訳本も手掛けた著者が、主著だけでなく膨大な歴史資料を基にして書いている。

闘うレヴィ=ストロース (平凡社新書)

闘うレヴィ=ストロース (平凡社新書)


この本は、どのような目的でとるかで評価が変わってくる。はっきりいうとレヴィ=ストロースの思想的功績を概念的に俯瞰した視点から知りたいという人には不向きである。主著の三作『親族の基本構造』『野生の思考』『神話論理』も時系列に解説されるが、知っている人ならわかるとおり、この議論は図解がなければ到底のみこめる代物ではなく(といっても図解があっても評者自身は半知半解だが…)、この本だけで彼の思想を十二分に理解することは困難だろう。

構造主義の入門的内容の新書はほかにも数あるのでそちらをあたった方が得策だ。僕の手元にある初版の帯には「まったく新しい思想家像」とあるが、その言葉通り、本書の主眼は構造主義の概念的な理解というより、これまであったレヴィ=ストロースの中期から後期の厳粛な構造主義者のイメージとは別の、マルクス主義に傾倒し反体制的活動にコミットした血沸き肉躍る若いころについての著述の側にこそある。活動家の雑誌に寄稿した彼の文章から透けて見えてくるのは、西欧のエスノセントリズムを暴き出した鋭敏な知性、というイメージとはまた別の、まだ未成熟で不安ながらも、芯の通った一学生の面影である。後の彼の仕事は、マルクス主義を含む「西欧」を相対化することになるが、彼のなかに転向や断絶があったというよりもむしろ、あらゆるものを相対化するという彼の思想的な構えは、いつの時代にも通奏低音しているように読める。

そんな若いころの彼については本編約260ページ中の前半約100ページの部分で終わっている。彼が醸成していく親族構造や神話素などの構造主義の理論については、他の入門書や彼自身の本をあたってみた方がいいだろう。