いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【書評】熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録


本書は日本有数の製紙メーカー、大王製紙の前会長にして、自身の子会社の余裕資金100億円余りをマカオで「溶かした」男、井川意高氏の回顧録です。

大企業社長の長男に生まれ、厳格な父親の元で育てられ、未来の会長として入社。子会社で順調にキャリアを進めていく筆者は、この本を読む限りでは合理的思考を標榜し、部下にもあいまいさを許さないなど、ビジネスの現場では有能だったことがうかがえます。

また、話の本筋からは外れますが、仕事の息抜きに筆者が行き来したという夜の街での華やかな交遊録を綴るページでは、有名人の実名がバンバン出てきます。これはこれで面白かった。

ただ、関係が噂されたというのを口実に、一度しか会ったことのないような有名人の実名をあげているのは、tefu君的な素質を感じてダサイです。「実はこの人『キョロ充』(真のリア充の周りを取り囲んでいる取り巻きの雑魚キャラ)なのでないか?」と疑ってしまいました。笑えるのはこのあとのページで、特別背任の容疑で逮捕されて取り調べを受ける際、事件に関係のない有名な知人の名が残るのは不憫だということで「取り調べの可視化」をあえて拒否したといいます。自分の著書で開陳するのはアリなんですね…。不思議な価値観です。


そんなこんなですが、ぼくがこの本でなによりも感心したのは、この人のベースにある自己肯定感の方です。これが「育ちの良さ」というものなのでしょうか。

大王製紙から離れた私にとっても、懲役4年間の刑期を勤めあげたあとに新たな人生が始まる。(…)1964年生まれの私はまだまだ若い。4年の空白期間を経たとしても、再チャレンジする気力と体力は十分残っているはずだ。

この記述に対して、罪を犯したのに反省してない!とかそんなことは思いませんよ。そうでなく「1964年生まれの私はまだまだ若い」と言ってしまえる自意識に、ぼくは感銘を超えて嫉妬をしてしまう。
50すぎで前科持ちで、シャバに放り出されるんですよ? ぼくが同じ立場なら、不安とストレスでハゲ上がれる自信がありますよ。
井川氏が「まだまだ若い」と言ってのけられるところに、自分とは本質的に生まれが違うのだなと感じましたね。もちろん背景には、たとえ会長職を失ったとしてもなんとかなる人脈、社会関係資本があるのでしょうが。

結局のところ、この著者がなんで100億円もスルまでバクチをやめられなかったか、それは感覚的にはよくわかりませんでした。負けるたびにそこで「やめ時」はあったはずなんです。本当に大バカ野郎ですよ。ビジネスであそこまで頭がいい人がなんで? という謎は最後まで解けることはありません。

ただ、筆者が天文学的数字の大損をぶっこいた末にたどり着いた以下の気づきは、ありきたりとはいえ真理なのかもしれません。

「バクチをやる人間は、結局のところ皆バクチに向いていない」のだろう。皮肉なことに、「バクチをやらない人間ほどバクチに向いている」のである。


先週の有馬記念、よせばいいのに1万円ほど買い、うっかり3連単を当ててしまったぼくは、紛れもなく井川氏の言う「バクチに向いていない」人なのでしょう。