いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】メッセージ


カナダ出身のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督最新作は、地球上に飛来した謎の楕円体(≠ばかうけ)をめぐって人類が右往左往するSFです。原作は、アメリカのSF作家、テッド・チャンによる中編「あなたの人生の物語」。

あなたの人生の物語

あなたの人生の物語


ヴィルヌーブ監督、これまで重々しいサスペンスの「プリズナーズ」、サイコサスペンスの「複製された男」とまったく違うジャンルで快作が続いています。今度はSFですよ奥さん。しかも面白いんだから、本当にすごい。

エイミー・アダムス演じる言語学者は、「彼ら」とのコンタクトをとる任務を課せられます。「彼ら」は何者で、目的は一体何なのか。

タイトルや予告の醸し出す雰囲気からすると、「他者」をめぐる話かのように思えます。大学時代にカルスタを多少でもかじった者からすると「ああいう感じっしょ?」とおおよその流れを早合点してしまいそうになる。エイリアンはそもそも「他者」ですし、この手のSFで他者論といえば、「第9地区」など傑作をあげればきりがない。

本作もその手の「他者論」が語られないわけでもないですが、そこから一ひねり利かせています。本作が優れているのは、エイリアン=「彼ら」が何者で目的は何なのか、という観客が当然気になってくる話は「いったん脇に置いておいて」、別の物語のキーを発見したところにあります。それは主人公が手に入れたものです。

その仕掛けのために、本作では映像的な「ミスリード」が利かされています。でも実はその「ミスリード」は、冒頭ですでに明示されている。綺麗な構造になっているのです。

ジャンルは全く違うと言いましたが、映像はヴィルヌーブ監督ならではで、ときおり耽美な描写が差し込まれはしますが、それでいてとてもわかりやすい。「インターステラー」なんかに比べたらこんなわかりやすいものはない。

重要な宇宙船描写ですが、イサム・ノグチ感が漂うデザインは、あれはあれであり。むしろ好き! もはや我々は、リドリー・スコットが描くローションべっちょりエイリアンにも、「インディペンデンスデイ」で圧倒的な武力を誇ったエイリアンにも惹かれない体になってしまったんですから。

観終わった誰もが、主人公の受け入れたある壮絶な宿命に思いをはせることでしょう。彼女はそれで幸せになれるのでしょうか?