いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】疑惑のチャンピオン

スポーツ選手の薬物汚染は、他の犯罪や違反行為とちがう独特の後味の悪さがあります。なぜならそれらは「競技の後」に発覚するからです。ぼくら観衆は一度は彼らのプレー、記録を「すげぇ!」と興奮させらるのですが、そこから時をおいて、すべては薬物というズルをしてのものだということがわかる。「あの興奮はなんだったんだ」と思いたくなるものです。薬の種類は少し違いますが、清原和博に対して同じような感情を抱くファンは多いことでしょう。

本作の主人公、ランス・アームストロングも、無数のファンをそうした落胆を陥れたひとりでしょう。アームストロングは、自転車レースの世界最高峰、ツール・ド・フランスにおいて前人未到の7連覇を成し遂げました。ところが、ご存知の方もいるように、彼もまたそれらの栄光の季節の間中、ずっと薬物を使っていたことがわかり、記録を剥奪されています。本作はアームストロングの嘘に満ちた栄光と、その崩壊を描いています。

脚本の元となっているのが作中にも登場するジャーナリスト、デヴィッド・ウォルシュの著書「Seven Deadly Sins: My Pursuit of Lance Armstrong」であり、彼の視点から描いているということもあるのでしょうが、わりとアームストロングに対して容赦ない作りになっています。映画は冒頭からまもなく、アームストロングが怪しげな医師(ちなみにこの医師の操るイタリアなまりの英語が癖になる)に接触しています。

アームストロングが、薬物使用の疑惑を持たれながらも、なぜ7連覇を成し得たのか。その一つには、自転車レースの運営組織であるUCI、そして、マスメディアとの過剰なまでの癒着があったのでしょう。そしてそれを成し得た背景には、アームストロング特有のギミックがあったようです。それはずばり、ガンを克服したというギミックです。

ガンを克服し、おまけにツール・ド・フランスに勝ち、そして同じようながん患者を応援する。そんなヒーローに矛を向けたならば、彼の応援者を敵に回すことになります。それがどれだけ困難なことか。本作のとくに後半部分は、ウォルシュの視点をとおし、ジャーナリストとしての矜持を描いているところもあります。

本作は、アームストロングはガンを克服したことによって国民的ヒーローになり得たことを描くと同時に、彼の栄光の崩壊の序曲となる証言もまた、ガンで入院したときのある取り留めもない発言だったという皮肉も浮き彫りにします。

アームストロングを演じているのは、ベン・フォスターという俳優です。失礼ながらこの映画まで知らなかったのですが、彼の雰囲気がまたいい味を出している。実際のアームストロングとそんなに似てはいないのですが、どこか平気で嘘をつきそうなリアリティがある。実際にスクリーンで、フォスター演じるアームストロンが真っ赤なウソをつくのですが、真相を知る鑑賞者は、彼の平然とする様にイラつけます。

誰に反対されようが真実をつまびらかにすることがいかに尊いことなのか。そして、ウソは必ずバレること。アームストロングの騒動はそれを教えてくれているのかもしれません。