いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【書評】あそびあい

あそびあい(1) (モーニングコミックス)

あそびあい(1) (モーニングコミックス)

一概に「好き」といっても、十人十色。ただひとりが「好き」という人がいれば、誰でも「好き」という人がいる。そして、そのどちらが正しいと言い切れないところがあります。

新田章(女性だそうです)による漫画「あそびあい」は、そうした感情について考えさせられる一作です。高校2年の山下は、1年のときからぞっこんだった同級生の小谷(ヨーコ)と体の関係です。けれど、山下にとって小谷がオンリーワンであるのに対して、小谷にとって山下は肉体的快楽を満たしてくれるワンオブゼムにすぎない。いわゆるポリアモリーです。

小谷は「もらえるものはもらう」というきわめてシンプルな損得勘定の中で生きています。山下のことは「好き」だし、彼とのセックスを基本的には断りません。ただ、自分を誘う他の男ともヤルのです。

山下としては、小谷がほかの男とセックスすることが、耐え難い苦痛になるのです。山下が奔放な小谷に苦悩するのは、彼が彼女を「独占したい」からにほかなりません。山下は小谷を自分だけのものにしたいですし、自身も彼女だけのものになりたいと思っている。けれど、小谷は山下のセックスを評価するものの、それは山下が彼女に対して「独り占めしたい」と思うような類の感情ではないのです。でもそのことが、山下ら周囲の人間を狂わせていくことになります。


山下がどんなに思いを訴えかけたとて、小谷には暖簾に腕押し。小谷はぽかんとあいまいな笑みを浮かべるだけで、また別の男と肌を合わせてしまいます。山下を始め周りの人の心を惑わしながら、何にも心惑わない小谷は、どこか超越的な存在感を帯びていきます。

小谷のことを黙れくそ×ッチがと罵らりたくなる人もいることでしょう。けれど本作が面白いのは、山下のロマンチックラブも、そして小谷のポリアモリー的な生き方も、あくまで平等に描いているところです。もちろん現実には、小谷のように同時期に何人もの男と体の関係をもつことが招き寄せるトラブルや暴力もあることでしょう。本作は、そのことにも一瞬だけ触れます。けれど、基本的には、山下と小谷、どちらにも肩入れしないように描いている。

だから、小谷の言い分もわからなくはないし、反対に山下が小谷に一対一の恋愛を強要し、彼女を「成長」させようとする姿が、かえって独りよがりにすら思えてきます。所詮ふたりは別のふたつの「ルール」を生きている人間なのです。一方がもう一方を正そうとする権利はない。けれどそれでも正したい、変えたい、自分のものにしたいと思ってしまう程度には、恋は人を狂わせてしまうもので。


惚れた腫れたの問題は、結局は「惚れたもん負け」みたいなところがあります。個々人に不平等に割り当てられた性的魅力によって、恋愛のよしなしごとは動いていきます。小谷さんはたまたまそれが人より余分にもらえたから、そんな奔放な振る舞いができたのにすぎないかもしれません。そしてその魅力は、経年変化で減っていきます。彼女が30歳になったときにどうなってしまうのかは、想像するにとどめておくことにします。