いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

木村拓哉という「大正義」

もはや周回遅れになるけれど、今年もいろいろあった「FNS27時間テレビ」の話題を。いろいろ思うところはあるのだけれど、先日こんな記事を目にした。

『27時間テレビ2015』SMAP木村拓哉がバンジージャンプをクールに決めてカッコよすぎると話題に - AOLニュース

別に27時間すべてを見たわけではなく、SMAPめちゃイケメンバーの水泳対決と、稲垣吾郎に科せられそうになった罰ゲームのバンジージャンプをキムタクが代わりに飛んだところを偶然にも見ていたのだ。

ただただキムタクがカッコいい、という場面だった。

こうした彼のあり方には、もちろんネットでは批判もある。100対0には絶対ならないのがネット世論である。

稲垣吾郎の身代わりになることで“男気”をみせた木村拓哉。この行動にネット上では、

27時間テレビのキムタクが毎回カッコ良くてファンになってる」
「男の私から見てもかっこいいね」

と、賞賛の声が上がる一方、

「誰も笑えないよ」
「はいはい木村カッコいいカッコいい」
「自ら手を挙げるのがカッコいいと思ってるからな」

 など、冷めた意見も殺到した。

木村拓哉の「27時間テレビ」での行動に冷めた意見殺到 - ライブドアニュース

一連の展開をこのように薄ら寒い思いをして見ていた人が中にはいることも、よくわかる。

ただ、ここで間違えてはならないのは、キムタクがカッコよくあろうとするのは自身が「カッコいいと思ってる」からではない。
彼はつねにカッコよくあることが望まれており、常にカッコよくあらねばならない存在なのである。もはや個人の卑小な自己満足のレベルで片付けられる問題ではないのだ。

そういう意味で、ぼくが今回木村拓哉の一挙手一投足を久々にじっくり見て感じたのは「冷めた意見」などでは毛頭ない。
「『木村拓哉』をやるのって大変だろうな…」という同情だ。


キムタクといえば、もう何年も、ヘタしたら十数年前から押しも押されぬ芸能界の「大正義」なわけだ。「ちびまる子ちゃん」のクラスでいえば大野くんのようなもの。常に「カッコいい」、常に「正解」、常に「勝つ」ことが求められている。キムタクはオンリーワンじゃだめで、彼はだけはナンバーワンである必要がある。彼に求められているのはまさしく「HERO」としての役柄だ。

ちなみに「大正義」とは、主にネットにおいてプロ野球ジャイアンツなどに対して使われる造語だ。

主に圧倒的な力(戦力や政治力など)を持つモノに冠せられる言葉。ネットスラングの1つ。

それは時に傲慢な俺様正義を揶揄する意図で名づけられる。

大正義とは - はてなキーワード

巨人以外の球団を贔屓にするファンからの「はいはい、どうせ最後は巨人が勝つようになってるんでしょ?」といった揶揄も入っている。たぶん、常に巨人が勝つシナリオだけを望む球団フロント、巨人ファンを嘲笑する意味合いもあるだろう。

ただ「大正義」巨人軍だって負けるときはあるし、優勝できないシーズンはある。「大正義」であるだけに、勝てないときの重圧は他球団よりあるかもしれないが、なんだかんだいって野球はチームスポーツであって、ひとりで背負い込むわけじゃない。


それに対して「大正義」キムタクを背負い込むのはキムタクひとりなのだ。その重圧は計り知れない。

今回の放送でも、バンジージャンプの前に次のような場面があった。
水泳対決でキムタクが、ナインティナイン矢部浩之と対戦することになった。矢部が競争前、自身の高校時代には地元でキムタクよりモテていたと挑発した。矢部の挑発に、勝負を盛り上げる意図があることは明白だが、逆に言えば、キムタクが矢部の鼻っ柱をへし折るために「勝たなければならない」シチュエーションがここで整ってしまったともいえる。

このあと、木村は矢部に無事勝つことになり、「やっぱりキムタクかっこいい」という喝采が起きた。

もちろんこの勝負について、木村が勝つように矢部が手を抜いたと思う向きもあろう。真相はわからないが、そう考えるのは当然である。
ただ考えてみてほしいのは、ガチの競争で必死の思いをして勝つのも、相手に手を抜いてもらって勝ったフリを演じるのも、まともな神経をしている人ならばどっちにしろ心労がある、ということだ。
その心労をも背負い込んで演じ続けねばならないのが「大正義」キムタクなのだ。

常に「勝たなければならない」ことだけが辛いのではない。本当は負けていたとしてもその負けはもみ消され「勝ったふりをしなければならない」ことも辛いのである。

われわれ市井の平凡な男性諸君は、そんなキムタクをあざ笑うことができるだろうか? もし可能だとして、われわれ平凡な市井の男子がキムタクに代わって「キムタク」を演じられることができるだろうか。1日、ヘタしたら1時間ももたないだろう。「大正義」キムタクの重圧は、彼だからこそ背負い続けることができるのである。