いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【マンガ評】おんなのいえ / 鳥飼茜

先日、平均寿命が伸びたわりに女の大きな選択が人生の早い時期にかたまりすぎじゃね? という話を書いたが、きょうは、そんな選択のまっただ中という女子の胸を掻きむしるような漫画を紹介したい。



講談社の雑誌「BE・LOVE」にて連載中の鳥飼茜の作品。単行本は現在5巻まで出ている。
主人公の大前有香(ありか)は、(30歳と言われれば逐一29歳と訂正する)アラサー。美大を卒業したあと、イラストレーターを志してはいたが、3年前から男と同棲を始めて開店休業状態に。ところが、暮らしのすべてを彼の側に合わせていたにも関わらず、ある日突然、別れを切りだされてしまう。

(1巻より)
同世代が次々結婚するなか、自分もいずれ…と思っていたあり香は突然のハシゴ外しにあった格好となり、ショックで大阪の実家に引きこもってしまう。そののち、紆余曲折を経て彼女は東京へ戻り、5歳ほど年の離れた妹・澄香(すみか)との女ばかりの「おんなのいえ」で、再出発を切ることになるのだが…。


29〜30で独身というと、ぼくとほとんど同じ境遇なのだけれど、男と女では当然見える景色も全然違うわけで。そりゃ、男だって結婚するだろうと思っていた女に別れられたら傷つくだろうが、たぶんきっと、「ゆくゆくは結婚できる安心感」が脆くも崩れ去ったときの女性は、地面もろとも崩壊するような思いを味わうのだろう、きっと。

そんな彼女の前に現れるのが川谷という男なのだが、既婚者と発覚してあーなんだクズかと思えっていれば、この男も中々の面倒くさい奴である。あり香に接近したのも単なる体目当てではないといい、漫画はあり香と彼の不思議な関係を軸に展開していく。

あり香のまわりには彼女と対の関係となる様々な女性が登場するが、その中でも特に異なる境遇なのが、友人のちえみだろう。彼女はすでに結婚し、子育てに奔走中の身だ。
ちえみは、男にフラれて人生をリセットしたあり香に対し、自分は「他の選択肢」を捨てたといい、それゆえに「正しい道」が一本用意され、自分は寄り道せずそれを進むしかないのだとあり香に語る。

(1巻より)

一方あり香は、自分の20代について「もう十分 好きに生きた」と認めた上で、「手元に今 あるものといえば 山ほどの 果たしきれなかった 可能性の残骸だけじゃないか」と気づくのだ。



(5巻より)

おうふ…この言葉は性別を問わず、いい年してフラフラしている独身男女の胸をエグるのではないだろうか。
そうなのだ、結婚したら可能性が狭まるとはいうのだけれど、じゃあ結婚しないで可能性ばかり棚に並べたところで、なんんんんんにもならないのである。

そんなこんなで振り回されっぱなしのあり香なのだけれど、5巻においてついにあのめんどくさい男、川谷と一線を超えてしまう。はあ、なぜ神は男女の友情という無理ゲーをわれら人類に与えたもうたのか…。

川谷との恋の行方もふくめ、あり香という30の女性の身の振り方が気になる一作である。それにしても、どうして寂しそうな30代女性は魅力的で可愛くみえてしまうのだろうか……。