【映画評】サード・パーソン ※後半赤字ネタバレ
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おれたちの兄貴リーアム・ニーサン、もといリーアム・ニーソンが主演する『サード・パーソン』は、ニューヨーク、ローマ、パリの3都市を舞台に、3組の男女の姿を同時並行的に描いていく群像劇である。ニーソンの他に、エイドリアン・ブロディやジェイムズ・フランコ、ミラ・クニスらが共演している。ポール・ハギス監督といえば、アメリカの人種問題を複数の視点から描いた『クラッシュ』があり、同じ群像劇として期待が募る。タイトルは原題と同じで「三人称」を意味し、かなりストーリーの核心を付いている。
ニーソンの役どころはピュリッツァー受賞歴のある作家で、パリのホテル一室で執筆をしているときに、浮気相手のライターが訪れる。
ブロディが演じるのは服のデザインを盗んで横流しするビジネスマンで、旅先のローマでラマ族の女性と知り合う。
そしてニューヨークではミラ・クニスが、我が子を殺しかけたとして、元夫のジェイムズ・フランコから接見禁止を命じられている母親を演じている。
『クラッシュ』がそうだし、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『バベル』もそうだが、こうした群像劇は最後にすべての線が1つに交わる流れを期待してしまう。
けれども、本作はいつまでたってもストーリーが交わる予感がしないのだ。いったいどうしたんだと思っていたら、それとは別に、鑑賞者は画面上で続く映像に次第に違和感を催していく。舞台は遠く離れた3都市を行き来するのだが、そこには他の都市で映っていたものが映り込んでしまうのだ。どこでもドアでもない限りありえない話だが、でも実はこの“違和感"こそが、監督の用意していたものなのである。
本作は群像劇の体をとりながらも、実はそうではない。これ以上を書くとネタバレになってしまうので自重するが、ギリギリ限界のところまで書こう。先にぼくは、本作が3つのストーリーを同時並行的に描いていると書いたが、実はそうではない。全てはある一つのストーリーの別の側面なのだ。
未見の読者はこのことを頭に入れ、かすかにもった違和感にも油断せず、鑑賞に入ってもらいたい。
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※ここからがネタバレ。
実は、ニーソンのパリを舞台にしたストーリー、ブロディのローマを舞台にしたストーリー、ミラ・クニスのNYを舞台にしたストーリーはすべて、冒頭の作家マイケル=ニーソンによる創作の一場面に過ぎないのである。だからこそ、舞台が遠く離れた3都市なのに、互いの舞台に別の舞台のもの、人が映り込むことが可能になる。3つのストーリーは、作者自身の体験のシャッフルなのである。
劇中では、マイケルにとっての創作が過去に犯した過ちに対する言い訳であったことが明かされる。この過ちというのがかなり本域のクズエピソードなのだが、それをフィクションという形で彼は償っているというのである。
さて、複雑な構造をとっている本作だが、ぼくはこの試みが上手くいったとは思えない。
1つ目は、3つのストーリーが端的にいって心惹かれないということである。特にブロディとラマ族の女については、観ているのが非常にダルい。早く別の話に移れと思ってしまう。
2つ目は、3つあるストーリーのうち、なぜ1つをニーソン自身に演じさせてしまったのか、という問題である。ストーリーテラー=筆者自体がニーソンなのだから、彼に3人の1人を演じさせてしまったらわかりにくいではないか。
この点、本作のタイトルでもある『サード・パーソン』の意味が効いていて、彼の日記を覗き見た浮気相手がなぜ一人称でなく三人称の「he」で書くのかと突っ込んでいるが、それにしてもわかりにくい。
とにもかくにも、ニーソンとオリビア・ワイルドのバカップルが見れるだけで、ニーソンファンには満足の一本かもしれない。