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85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【書評】メディアとテロリズム/福田充

メディアとテロリズム (新潮新書)

メディアとテロリズム (新潮新書)


テロや災害についてのメディアの危機管理を専門にする著者による本書『メディアとテロリズム』は、タイトルのとおり、メディアとテロリズムの関係について論じられた本であることは間違いないが、それと同時に、そもそもテロリズムを考えるということは、必然的にメディアを考えることでもあることも教えてくれる。

それは、テロの目的に関係する。本書が口酸っぱく繰り返すのは、多くのテロが犯行そのものの完遂だけではなく、犯行がメディアをとおして広く伝わることをも目的にしている、ということだ。テロとは、メディアを通してそれを知った対象国の国民を動揺させたり、政治的主張を知らしめたりすることこそが目的なのだ。
つまり、メディアを受容するわれわれは、実はテロの目的の一部に組み込まれている、ということである。
本書は、テロリストと、独自のフレーミングで加工して報じるメディア、そしてそれを受容するオーディエンス(視聴者)という3者が入り乱れる複雑な関係を、9.11はもちろん、イランの米大使館人質事件、ユナボマー、国内からは浅間山荘、オウム真理教の一連の事件、さらには赤穂浪士(!!!)まで、豊富な事例をとりあげながら解説していく。


特に商業として成り立つメディアでは、テロが優秀な「コンテンツ」と成り立つがゆえに、報じてほしいテロリストとの間にある種の「共生関係」を形成されることも、本書は指摘する。
それだけに何らかの規制が必要だが、こうした話が出るたびに、例の権力と報道というあの厄介な問題も浮上する。
それでも、実はイギリスやアメリカには有事の報道についてのガイドラインが、全く違ったプロセスによって組み立てられており、それに比べて日本ではガイドラインが不十分であることを、著者は指摘している。



本書出版時に比べると、今回の「イスラム国」による事件ではソーシャルメディアの普及という変化があった。たとえばこういう現象。
イスラム国、ツイッターの「クソコラ画像」に激怒? 「2人の首を刎ねた後、お前たちの顔を見てみたいものだ」 : J-CASTニュース
オーディエンスの側から、テロリストの側に直接的な働きかけがあったことは、新鮮な光景に映る。


それでも、本書で論じられた内容の延長線上にあることは間違いない。メディアによる報道を注視することはテロリズムを考えることの一部であり、本書を読んだ上で、今回の事件についての報道をチェックすることは重要な試みであることにまちがいないはずだ。