いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】ブリングリング



アメリカはロサンゼルス在住のティーン5人が、セレブたちの豪邸に次々と侵入し、ブランド品の盗難を繰り返していたという実際の事件の顛末を題材にした、話題作。
ソフィア・コッポラ監督作ということで、またいつもの「わたしたち(だけ)の世界」を構築した耽美な世界かと予想したが、今回は過去作に比べて意外なほどにあっさりしている。
これはおそらく、過去作で取り上げたどのキャラクターと比べ、本作の主人公たちへの監督の精神的な距離の違いがでているのだろう。

「人々がアイデンティティを追求していくということに魅了されて、私はそこから作品づくりに入っていきます。でも、本作ではほとんどのキャラクターはあまり同情できない人たちですので、ストーリーに入って行く方法を探さなければなりませんでした」

ソフィア・コッポラ監督「ブリングリング」製作の経緯を語る : 映画ニュース - 映画.com

「やっべイミフwwwこの子たち意味わかんねーわwwwwww」という視点から出発しているためか、過去作に比べてたんぱくで、対象との距離感がある作品になっている。いつものように、彼女らの内面世界にとりこまれるでもなく、かといって突き放し小馬鹿にするでもなく、まさに「観察」という言葉が適当な温度感で、淡々と叙述していく


前の学校で馴染めなかったマークが、転校してきた学校でレベッカという少女とつるむようになってから、物語はスタートする。
彼らはびっくりするぐらいスムーズに、よどみなく他人の家に侵入していく。そこには、例えば『紙の月』宮沢りえが逡巡しながら超えた境界線など、どこにもない。まさに心のバリアフリー状態で、(いい意味でも悪い意味でも)「アホ」のなせる技である。
さらに、犯行を友だちに言いふらしたり、盗品を使ってFacebookに自撮りを投稿したりする始末である。そらバレるわ。
対するパリス・ヒルトンら盗まれる側も盗まれる側で、海外旅行に行くとSNS上で報告した上に、さらに自宅にカギをかけないのだ。この事件は「盗まれるアホ」が「盗むアホ」を増長させた結果、ともいえる。

ただ、ターゲットとなる各界のセレブリティは、彼らにとって憎むべき対象でも嘲笑すべき対象でもない。むしろ、あこがれの対象なのである。そこが不思議。なぜ大好きだという相手のものを盗むのかが、わからない。それは最後まで明かされないが、おそらく監督本人もその心理はわからないんじゃないだろうか。


『スプリング・ブレイカーズ』とこの作品を比較する向きがあり、たしかにガーリーなクライムムービーという点で似ていなくもないが、「“あっち側”に行っちゃった感」があるあの作品に対して、この作品の少女たちはまだ“こっち側”にいて、犯す罪だってどこかセコい
逮捕後の取材で犯罪が「学ぶ場」だったとか、いずれ指導者になりたいとかいうニッキー(エマ・ワトソン)なんて、張り倒してやろうかと思うが、こんな風に絶対自分の失敗、挫折を認めない女っているよなー、という妙なリアリティも感じる。
彼女たちが理解できないとした監督だが、ラストカットにニッキーの強い眼差しを選んだのには、「この娘は転んでもただじゃ起きないよね、たぶん」という彼女の今後への期待≒恐れを現している、かもしれない。