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【映画評】パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間

パークランド ケネディ暗殺,真実の4日間 [Blu-ray]

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アメリカの歴史上、最大の事件の一つとされるジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件。本作は、奇しくもこの歴史的大事件の主要な登場人物、被害者ケネディと容疑者オズワルドの2人を迎え、そしてその死を看取ることとなったパークランドメモリアル病院を中心に、事件からの4日間を複数の視点で描いている。


邦題のサブタイトルに「真相」とある。当事者へのインタビューを改めて行ったという監督による本作は、もちろん何らかの「真相」を描いているといえるが、それはいまだに陰謀説が根強い暗殺それ自体の真相ではない。むしろ、それらを意図的に避けている(オズワルドを撃った犯人は映りもしない!)。偶然にも世紀の事件に関わってしまった者たちの身に何が起きたのか、事件が彼らの人生を不条理にもどう変えたかを、4日間に区切って淡々と描いているような印象。

象徴的なのは、「暗殺の瞬間」だ。本作はその瞬間を直接的には描かず、8ミリカメラを撮影するエイブラハム・ザプルーダー(ポール・ジアマッティ)が「目撃する瞬間」に焦点を置く。ケネディを死に追いやった銃声も、拍子抜けするほど小さい。その変わりに劇場に響き渡るのは、時の大統領暗殺を目の当たりにしたザプルーダーと同僚女性の悲鳴である。このとき撮影された8ミリこそが、暗殺の瞬間を記録した歴史的映像「ザプルーダー・フィルム」である。

偶然にも劇的な瞬間を映してしまった彼は苦悩し、以後カメラを手にすることはなかったという。マスメディアはフィルム欲しさに群がるが、彼はそのショッキングな内容の公開をためらう。焼身自殺を記録し、さらに公開も容易にできる現代の「目撃者」は、この感覚から遠く離れてしまったかもしれない。

懸命な蘇生術と喪の作業が続く傍ら、大国アメリカの権力移譲、そして暗殺者の捜査、逮捕が同時並行的にめまぐるしく描かれていく。ぼくには、茫然自失する妻ジャクリーンより、大統領の屈強な側近たちがときには怒りと悲しみを暴発させながらも、基本的には耐え忍ぶという形で惨劇を必死に受け止めようとする身ぶりが印象に残った。思えば、この映画が描く大半は、そうした「背中で泣く男たち」だ。

中盤からは、容疑者オズワルドの実兄の視点も映画には加わる。世紀の大犯罪を犯したとされる弟は、意味不明な言葉を残してそのまま逝ってしまう。圧倒的な敵意を残せるだけ残して。生きていく兄からすれば、これだけ不条理な仕打ちもそうはない。全米でもっとも惜しまれた男が弔われた同じ日、国中から憎まれてもおかしくない男の喪の作業が寂しくも行われた。このことは忘れるべきでない、と監督は言っている気がする。
事件前、ただの変質者としてオズワルドを捉えていたFBI捜査官は、厳しい叱責を受けることになる。では、彼でない誰か別の捜査官なら、オズワルドの暗殺を未然に防げたのか? 同じように頭のおかしな変人の戯言と聞き流していたのではないか? そうした不条理さも本作では描かれる。


暗殺事件について、何か特定の強い主張があるというより、起きたことを淡々と叙述していくスタイルに近い。何らかのカタルシスが待っているわけでもなく、地味だが、一人の偉大な男の死が悲しみ以上の様々なものを周辺の人物にもたらしたことは、この映画でよくわかる。