いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座、直毛によるブログ。今ここに、ポスト宮根誠司を目指すことを誓います。

「8歳からの内定獲得術」を実際に読んでみた

先月、偶然見つけたこんな画像を投稿したところ、ドドドと拡散されることがあって。



この画像をみた多くの人が同じような感想をもってくれたようなのだが、いかんせんこの本そのものを読んでいないという疚しさがぼくにはあった。


書評ブロガー(仮)の端くれとして、「読まずに批判」はもってのほかだ。ということで、現物を取り寄せて実際に取り寄せて読んでみることにした。

竹内謙礼という、経営コンサルタントの著した新書。

なぜ子育てで内定を考えにゃならんのか?

多くの人が「8歳」と(就職ならまだしも)「内定」を結びつけるその絶望的なセンスに唖然としていたが、なぜ、そんな子どものころから内定を目指さなければならないのか、という問題である。これについて、著者は冒頭で早速ふれる。
 

 まず、親の役目というのは、行き着くところ、子どもを「ちゃんとした大人に育てる」ということである。
 動物に「子孫を残していく」というDNAがある以上、親は子どもに対して、生きていくための知恵と環境を授けるのが使命となっている。親熊が小熊に餌の取り方を教えるのと同じで、親は子どもに対して、社会に順応して、日常生活ができる方法を身につけさせることが、"役割”なのである。
 そう考えると、一般的な社会においての、子育てのゴールは「就職」ということになる。

p.4

「『子孫を残していく』というDNA」というアバウトな書き方もどうなのよと思うが、たいそうな生命の神秘と結びつけた上で、筆者は次の段落で、子育てのゴールは「就職」になるといってのける。
だが、会社に入ることだけが「就"職"」ではないのではないか。親熊は小熊に内定の捕り方を教えたか? 食べていければいいのであって、就活、さらにいえば内定獲得だけを標準とした育て方は視野狭窄でないか? 今の時代、「就職」だけが食べていく道ではないのだ。
けれど、筆者の想定する人間の「一般的な社会」からは、そうした可能性は完全にシャットアウトされている、ということである。
この時点で、ヤベーこいつ話通じねー感が満々なのだが、気を取り直して読み進めてみる。


では、なぜ8歳からなのか?

第1章では、なぜ8歳から就活をしなくてはいけないのか? が語られる。
筆者によると、内定獲得に必要な条件は「より優れた人材」「第1印象が良い人材」の2つだそうだ。この何も言ってねぇじゃねーかテメー感は胸に秘めて先へ進む。
いよいよ、なぜ8歳からなのかという根拠の部分である。

 おそらく、このような習慣(※引用者注「より優れた人材」「第1印象が良い人材」)が身につくのは、小学校に入学してから、ある程度、物の分別がつき始めた頃、つまり8歳ぐらい、小学校2〜3年生の頃から、親は子どもの就活を意識して、子育てを行ってかなくてはいけないのではないだろう
「8歳から就活を意識して子育てをするなんてバカげている」
 そう思う親も多いはずである。しかし、大学生の就活が始まった直後から、先述した能力を身につけることが難しいことぐらい、先に社会に出て働いている親のほうが、自覚があるのではないだろう
 就活が小手先の能力やテクニックでごまかしがきくものではない以上、やはり、8歳ぐらいから就活に向けて子育てを行うことが、親が子どもを就職難民にさせない防衛策に繋がっていくのである。

※強調引用者
pp.28−29


それまで「である」「ではない」とガンガン断定していた筆者が、急にこの箇所で心細くなったのか、疑問形が多くなってくる。このあたり、話してて自信がないことに関して急に目が泳ぎ始める人みたいで、人間味があるので評価に値する。いいぞ!謙礼!


一応言い訳はしている

こうした本を書くにあたり、筆者も反発はあるだろうと思ってか、2章からの本論に入るにまえに、ちゃんと「言い訳」している。
「本書は『就活に負けない子どもの育て方』は把握できるかもしれないが、就職してから仕事ができる子になるかどうかは別問題である」と、日和だす。そりゃそうである。

しまいには、「今回の調査結果を某企業の人材担当者に見せたところ、『この条件を満たした学生は採用される人材かもしれないが、仕事の現場ではまったく使えない人材だよ』と、厳しいコメントをもらった」とも、白状してしまっている。ダメじゃん!


どういう手法?

2章から5章にかけて、実際に具体的な「子育て術」を論じていく。
子育ての専門家でも就職の専門家でもない筆者が駆使するのは、統計だ。就活生のときに内定を3つ以上獲った人と、1つもとれなかった人の22〜28歳各100人に、アンケート調査を行っている。
けれど、100人という圧倒的なサンプル数の少なさはやはりいただけない。テレビの街頭調査じゃないんだから。「一般的な商品の市場調査において、100人の対象者数でも、十分顧客の傾向はつかめる」と豪語し、おいおい大丈夫かよとこの人の本業の方も心配になってくるがそれはともかく、楽天リサーチを使っての「自費調査」だったという思わぬ告白もあり、このあたりは謙礼に同情せざるを得ない。
2章では家庭環境、3章では進学、学校生活、4章では部活、語学編、5章では趣味や服装等、日常生活における両グループの回答の差異から、筆者が内定獲得に必要だと思われる条件を、考察している。
ちなみに、本書は日経プレミアムシリーズで、日本経済新聞出版社から出版されている
ちょうどいいことに、本書の調査では、就活中に読んでいた新聞で、内定3つ以上獲った人で日経新聞を購読していた人が44.4%だったのに対し、内定が獲れなかった人は、23.3%しかいない!著者はこれをもって、日経新聞の購読を「最低限、やらなくてはいけないこと」と断言している。
ちゃんと調査によって出た結果だからな!おまえらステマなんていうんじゃないぞ!
終章の6章でもう一度、「親子で日経新聞に書かれているニュースの内容について話し合ってみ」ることを、念を押して勧めている
ステマじゃないからな!


まとめ

繰り返すと、計200人という母数の少なさはいかんともし難いし、その前提となる「内定を獲らせるための子育て」という思想も、窮屈すぎる。

けれど、いいことも言っているのだ。

小さいころから、「大人になったら、どんな仕事をやりたい?」という質問をすることを習慣づけることによって、子どもも「やりたい仕事」を常に意識しながら生活するようになる。その答えが毎回変わろうが、ブレようが、なんとなくだろうが、「やりたい仕事」にたどり着くための思考さえ身につけていれば、就活を迎えたときにやりたい仕事が"ない"という回答をしてしまう事態は、回避できるはずだ。
「子どもの将来は子どもが決めることだ」
この考え方は決して間違ってはいない。しかし、その"将来"を意識させる生活を送らせるのは、やはり子どもを育てる親の役目でもあるのだ。


謙礼、やればできるじゃないか。そうなのだ、この一言でいいのだ。
問題は本書が、子育てを、そして子どもの将来を8歳のころから、内定獲得というあの狭い密室で行われる陰湿なやりとりへ収斂させていってしまうことなのだ。もしかしたら子どものやりたいことは、就活という、あのクソしょーもない制度の外にあるかもしれないではないか。
本書に足りない視点は、やはりそこなのだ。


ということで、『8歳からの内定獲得術』を、義務感から書評してみた。


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