いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【書評】高学歴女子を苛む「女なのに」と「女だから」−−芦崎生「スコールの夜」

スコールの夜

スコールの夜

平成元年に東大法学部を卒業、都市銀行トップの帝都銀行に女性総合職一期生として入行した吉沢環が女性初の本店管理職に抜擢された。担当任務は、総会屋・暴力団への利益供与や不祥事隠しの役割を担ってきた子会社の解体と退職勧奨の陣頭指揮。保守的な企業風土による女性への偏見や差別に耐えての昇進を意気に感じ、荒療治に乗り出すが、周囲の感情的な反発を招き、経営幹部の派閥抗争に巻き込まれていく―。第5回日経小説大賞受賞。

「BOOK」データベースより

昨年ドラマ『半沢直樹』が大ヒットし、同じ池井戸潤による『不祥事』のドラマ化も決定したが、本作はそのようにわかに脚光をあびつつあるジャンル「銀行小説」といえる。現役の財務官僚が書いたということでも話題の日経小説大賞受賞作。


リアルな銀行の実態が突っ込んで描かれるのかというと、そういうわけでもない。小説は銀行が舞台ではあるけれど、とりたてて銀行でなければならない、というわけではない。

この小説が焦点を当たるのは「高学歴女子のキャリアと人生」という、トレンドの話題といえる。
東大卒のエリート行員である主人公の環は、身を粉にして会社のために働いてきた。途中結婚はしたが仕事優先の生活で破綻し、実母からは東大に行かせたことを後悔され続ける。交渉相手にも「女なのに」と半人前にしかみてもらえない。
そんな中でも我慢して働き続け、同期トップのスピードで出世してきた環だが、今度は「女なのに」とはまた別の「女だから」に苛まれる。女性を重用する会社の方針に乗っ取り、彼女が昇進している、という噂が行内にたつのだ。

本作は、「差別」だけでなく「逆差別」(という風聞)もまた、女性に牙を剥く、ということを描く。自分個人の能力、努力が評価されたわけではなく、ただ単に「女」という性別によって選ばれていただけなんて……。主人公の中で一度広がった疑惑は、彼女の中で今まで積み上げてきたものを、根元からぐらぐら揺るがしていく。


バブル期入行という設定から、どうしても『半沢直樹』と被るのだけど、『半沢』シリーズにあったようなスカッとする瞬間は少ない。なにより、主人公環のキャラがパッとしない。納得のいかない上司の命令に反感は持つものの、飲み会でうさを晴らすぐらいで、それは結局「昭和のお父さん」的な姿に収まってしまっている。前述した「女だから」問題も、もっと広げられそうなのだが、尻すぼみ感がすごい。これが官僚に描くことのできる組織人の限界か?
展開の鈍重さや、小説として語彙もところどころ稚拙で(「ブラック企業」という言葉がポッと出てしまうあたりとか)、満足できる出来ではないけれど、これはデビュー作。
著者には、日本の財政健全化に尽力していただきつつ、次回作を期待したい。