いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】映画「イグジステンズ」が教えてくれる有機物のキモさ

イグジステンズ [DVD]

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新作ゲーム「イグジステンズ」の発表イベントの会場で、天才ゲームデザイナーのアレグラ(ジェニファー・ジェイソン・リー)が、乱入してきた青年によって銃で撃たれる。ゲームをプレイしたことはなく、ただ警備員として現場にいただけのテッド(ジュード・ロウ)は、負傷したアレグラと、イグジステンズのマスターデータの入った彼女のゲームポッドを持って逃げるよう言われたのだが……。


ゲームを使ってリアルのバーチャルリアリティを行き来するという設定自体は、もろにサイバーパンクの系譜に位置するのだが、そこは『ヴィデオドローム』のクローネンヴァーグ。彼らしい悪趣味なひねりが加えられている。本作は、クローネンヴァーグ式サイバーパンクといえる。

おそらく多くの観客がギョッとするのは、冒頭から出てくるそのゲームポッドの本体そのものに対して、だろう。プラスチックなどの合成樹脂にはどうみても見えない、一見は臓器のような有機物だ。しかも呼吸のような収縮運動をし、なんかキュウウウ、キュウウウと鳴いている!はっきりいって、キモい!!!
そんなキモいゲームに熱狂する人びとが異様なのは、その熱狂の外側にいる主人公の1人テッドの視点から余すことなく描かれる。
そして、そのゲームポッドの実物がこちら。




どうみてもアレにしか見えません本当にありがとうございました。

プレイするとき、プレーヤーはこの本体をサワサワさわりながら恍惚の表情を浮かべるのだが、特にアレグラのそれは完全に別の1人プレイに見えてしまっているので必見である。

この映画が教えてくれるのは、我々は奇形な形の無機物には何も感じないのだが、奇形な形の有機物には不気味さを感じてしまう、ということだ。ゲームポッドは臓器やアレ以外に、焼く前のホルモンにも似ているが、ホルモンも奇形な形をしていて、よくよくみれば不気味である。食べれば美味いのだが。


ゲームポッドのプレイには、脊髄に穴をあけてバイオポートというプラグを作らなければならない。これがまたエグくて、腰のあたりに後ろからへその緒のようなプラグをじかに挿すのである。
ためらいながらもテッドはこのポートを作ってもらうのだが、これが自分ではどうにもならない背中、もっといえばケツのすぐ近くにあるのだ。他人に挿してもらわなければならない位置にあるこのプラグが、独特のマゾっぽさを際立たせている。M字のデコが進行する前の若き美青年ジュード・ロウが「早く抜いて!」と悶える様は、こちらもまた必見。また、途中でゲームポッドが故障するのだが、そのときの修理シーンがまた凝っている。
このように、ゲーム機を有機物っぽく改編するところには、何か意図や風刺が入っているのだろうか、とも考えるが、それだとかえって陳腐になる気もする。純粋に、作り手の性癖なのでは、という気がしてならないのだ。


ここまで散々キモいとかエグいとか書いてきた。けれどこのキモさがだんだんと癖になってくる類のキモさなのである。
のちに『インセプション』がやるような入れ子構造になっている世界は、それはそれで楽しいのだけど、それ以上にこの監督がいれてくる有機的なガジェットがいちいち気になってしまうのだ。


クローネンヴァーグ的なセンスが炸裂した珍品といえる。クライマックスで、ゲームのガジェットが"いかにもサイバーパンク"な凡庸なデザインに変わっていたことは、もしかすると我々観客が彼の世界観から帰還したことを、意味するのかもしれない。