いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】英雄の勇敢さを煽りすぎない地に足のついた映画「キャプテン・フィリップス」

http://m.youtube.com/watch?v=zc2wo5xytxc&desktop_uri=%2Fwatch%3Fv%3Dzc2wo5xytxc:Movie
2009年にアメリカの貨物船がソマリア沖で海賊に襲撃を受けた事件の顛末を描いた伝記的映画。主人公の船長フィリップスを演じるのはトム・ハンクス

冒頭、新たな航海にむけ、フィリップスを奥さんが自宅から空港まで送り届けるのだけど、この奥さんの実在感がすごい。マジで普通のどこにでもいるという風体で、彼女の存在が、リアルをほとんど誇張なく描くというこの映画の方向性を象徴しているといって過言ではない。このあと、彼女の直接の出番はないのだけど、それは帰ってよかった。邦画だとここをとことん掘り下げてウザい感じになってそう。


んで、航海。フィリップスが船長として細心の注く意を払っていた矢先、ソマリアの海賊にエンカウントしてしまう。トランシーバーを使った頭脳的作戦などでかろうじて逃れていたものの、ついに追いつかれてしまう。

海賊たちは、予告編での「Look at me,Look at me,I'm captain」も印象的だが、こちらも彼らも敵役も熱演といえる。彼らも、妻同様に、実在感がある。というのも、演じているのがハリウッド映画でたびたびお目にかかるようなムキムキ系のアフリカ系アメリカ人ではないのだ。どちらかというとスリムで、頬骨が出ている役者陣を起用している。本編では海賊のリクルートの場面が描かれるが、彼ら自身、オーディションで世界各地から集められたそう。
それで、この海賊4人のキャラもたっている。「Look at me」の眼光鋭いリーダーや、長身で元プロボクサーのトーマス・ハーンズそっくりな荒くれ者の2番手、怪我していることだけが特徴の3番手に、前半空気に近い4番手も後半運転手として地味に存在感をかもしている。

予告編だと船員側はやられっぱなしにみえるけど、貨物船内のパートはゲーム「影牢」やかくれんぼ的な展開もあり、意外とやりあっていてスリリング。


後半は、救命艇にのった海賊+フィリップス1人という展開。ただ、アメリカの駆逐艦が出てきたときの絶望感がハンパなくて、ぶっちゃけると早い段階で(え、すでに海賊詰んでね?)という情勢になる。海賊らが、屈強な肉体と最新鋭の兵器を備えたアメリカ海軍にどのようになぶられるのかを想像すると怖いくらいだが、それでも緊張感を途切れさせないで続く今作はすごい。

日本のコピーの焦点の当て方などが、どこかズレてるなぁと思うのだけど、この映画に関しては主人公が「勝利した」というより「耐え抜いた」という印象が強い。貨物船での海賊たちとの果敢な取引は充分勇敢なのだけど、映画はその「勇敢さ」を必要以上に煽りたてない。そこが好感をもてる。
フィリップスがおかれた状況が、いかに狂気に満ち溢れていたかは、その反動で事後に医務室で"あんな姿"になったことが物語っている。実は全てを解決したあとのあの姿の方が、ショッキングだった人もいるんじゃないだろうか。
逆にいえば「ハイジャックに巻き込まれた一般人がなんだかんだ事件を解決しちゃう」系のフィクションは、そこを描かなすぎていると思う。