いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座、直毛によるブログ。今ここに、ポスト宮根誠司を目指すことを誓います。

【映画評】ウルヴァリンという不気味の谷

http://m.youtube.com/watch?v=v8WjHdxNBCU&desktop_uri=%2Fwatch%3Fv%3Dv8WjHdxNBCU
X-MENシリーズのスピンオフ『ウルヴァリン:SAMURAI』を観てきた。


すごい鑑賞体験だった。スクリーンでは冒頭の十数分以外ほとんど「日本で起きていること」という体で事態が繰り広げられる。実際、日本でロケしたと思われる街並みも映る。けれど、どこかおかしい、なにかおかしい…。日本人キャラクターのしぐさも話し言葉も、なにかへんだ…。
その描写が完全に間違っていたなら、まだいい。しかし、この映画は下手に日本に似ているゆえに、かえって不気味さを与える。たとえるならそれは、アンドロイドにおける「不気味の谷」みたいなもので、現実の日本に近接するからこそ醸し出される不気味さなのだ。

本作は米と豪による合作で、世界的に公開されているが、これは現実の日本に住む我々だけがなしえる稀有な体験だ。製作者側の作り上げた日本は、我々の日本に住む側にとっては不気味な偽物、「日本らしき別世界」として立ち現れる。


しかし、こうした不気味さは、すべて作り手も織り込み済みなんじゃないかという気さえする。本作の原題は「The Wolverine」で、つまり邦題のサブタイトル「SAMURAI」は日本向けにつけられたことになる。けれど、普通に考えたら変だ。なぜ日本人にこれは日本ですよとこれ見よがしにアピールせにゃならんのか。英語版の予告編では、舞台が日本ということも、そこまでアピールされていない。
http://m.youtube.com/watch?v=th1NTVIhUQU&desktop_uri=%2Fwatch%3Fv%3Dth1NTVIhUQU
ここからは仮説だが、日本人を熟知した上での戦略なんじゃないだろうか。とかく、我々日本人は「海外で語られる日本」が大好きだ。とくに、真偽に関わらず、ポジティブな言及には目がない。この性質をみごとに利用されているんじゃないだろうか。
滝川クリステルが「おもてなし」と言いながら合掌するのは日本人からしたら滑稽だ。しかし、日本人が海外でそんな風に思われているなら、喜んでそのイメージに従う、そういうものなのだ。


ストーリーは凡庸で、キレが悪い。ウルヴァリンから不老不死の体質を奪おうとする老人パートと、ヒロイン・マリコと実の父によるお家騒動パートという二つの軸があって、この2つは実はあまり関係なくて、その上交通整理も上手くない。といってもこの2つは、行き過ぎたアンチエイジングと、既得権益にしがみつく老害という、今日的な日本を描いていないともいえないが。
アクション的にも、前半で盛り上がった分、中盤のドラマパートが長すぎて非常にダルかった。


映画としてはイマイチだが、先述したように「ちょっとおかしな日本」のオンパレードである。これだけでも日本で生きている者には観に行く価値がある。鑑賞中、我々は実際の日本の記憶と、この「日本らしき別世界」という二つの間で引き裂かれることになる。足元がぐらぐら揺らぐような浮遊感、そんな稀有は体験ができる2時間もそうそうないだろう。