いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【書評+告知】不祥事/池井戸潤 ★★★☆☆

不祥事 (講談社文庫)

不祥事 (講談社文庫)

トラブルを抱える支店を訪問し、指導し、解決する部署に異動になった花咲舞は、驚異の事務処理能力を持つ女子行員。特殊な習慣と歪曲したモラルに管理されたメガバンクに対し、歯に衣着せぬ発言力と、相手を張り飛ばす行動力で、彼女は組織に立ち向かう。新ヒロインが大活躍する、痛快銀行ミステリー誕生。
「BOOK」データベースより

ドラマ「半沢直樹」やその原作小説シリーズでは憎き敵役として描かれた銀行各支店を臨店する調査役。同じ池井戸潤による短編連作の『不祥事』では一転、その臨店する側の人間が主人公として描かれる。本作は、一見頼りなさげにみえる調査役の相馬健と、彼が「狂咲(くるいざき)」とおそれたかつての部下・花咲舞が再びタッグを組み、銀行各支店で起こる事件を解決していくライトミステリーだ。
ちなみにこの小説の舞台となる架空の銀行である東京第一銀行は、「半沢」シリーズで産業中央銀行と合併してメガバンク・東京中央銀行となる銀行と同名で、両作品にはそんな関連性がある。


「半沢シリーズ」と同様に、味方と敵というのが非常にくっきり別れており、(一部をのぞき)安心して読める勧善懲悪ものに仕上がっている。

多くの池井戸作品の舞台は彼がかつて勤めていた銀行だが、本作のなによりの特徴は、やはり主人公の女性キャラだろう。舞はもともと超一流のエリート・テラー(銀行の窓口係)である。しかしそれを彼女が鼻にかけるふしはない。むしろ彼女は、窓口係の悲哀を痛いほどよくわかっている。だから、窓口の女性行員の指導にやってきた彼女だが、事件が起きた際には彼女らの代弁者となって上司(主に男たち)と戦うのである。
そう、本作が描くのは、銀行の世界で出世レースにかまけているエリート男性行員らの裏で、ほとんどかえりみられない窓口の女性行員らの逆襲ともいえるのだ。
この元超一流の窓口係という舞のキャラも魅力的だが、本作の「ワトスン」的な役割の相馬も、今でこそ出世レースをコースアウトした負け犬行員だが、かつては一流のバンカーだったらしく、作中でほんのちょっとだけその片鱗を見せる瞬間がある。そういう「おいしい裏設定」のスパイスがかかっているところに、エンタメ小説としての完成度の高さを感じさせる。


相手が上司でも問答無用でぐいぐい追い詰めていく舞を、穏便にすませたい上司・相馬が慌てて止めに入るいう「定番ギャグ」がすでに確立されていて、これはこれでシリーズ化できるだろうし、ドラマ化も可能だろう。勝気な花咲は誰に演じさせたらいいだろうか。

ということで、告知です

次回、8月25日午後8時からのUst鼎談のテーマは半沢シリーズの第1作「オレたちバブル入行組」池井戸潤/文藝春秋)です。

オレたちバブル入行組 (文春文庫)

オレたちバブル入行組 (文春文庫)

周知のとおり、堺雅人主演でのTBSドラマが大ヒット中、まさかここまで当たるとは思っていなかったのでドキドキしているわけなのですが。
どうなるかわかりませんが、お楽しみに!!!


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