いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】THE GREY 凍える太陽 ★★★★☆


石油採掘所の作業員らを乗せた飛行機がアラスカ、極寒の積雪地帯に墜落。なんとか7名が生き延びたが、マイナス20度の寒さと、飢えた狼の群れが容赦なく彼らに襲いかかってくる。

主演のリーアム兄さん、もといニーソンは雇われスナイパーなのだが、冒頭からめちゃくちゃ暗い。どうやら、かつて最愛の女性との別れを経験しているようだ。


この「THE GREY」(DVDリリースのときサブタイトルは取られたようだ。だってこれ、映画に全然関係ないもん)、実は非常に奇妙な映画だ。墜落や狼というと、パニック映画やモンスター映画を想像しがちだ。現に、メンバーが徐々に死に絶え減っていくというストーリーは、非常にその手の映画にありがちな展開である。特に、最初の方はそのような勘違いをしてしまう。

けれど、観ていくにつれ、映画が描写の力点においているのは、そうした物理的な脅威だけではないことに気づく。たとえばそれは、ニーソンがたびたび振り返る最愛の女性とともに過ごした「過去」であったり、死ととなり合わせになった彼らがめぐらすのは「死後の世界」についての思考だ。この映画は、そうした非常に抽象的な思考へ、観客をたびたびいざなう。

前者のパニックムービー的な側面と、後者の抽象的な側面は、本来食い合わせが悪いはずだ。いや、現に違和感をもったのだから食い合わせはよくはないのだろう。
というのも、パニックムービーの描く物理的な脅威からの危機一髪というのは、「死んだら終わり」という発想でないと面白くないからだ。そこで登場人物が、死んだら死に別れた家族と会える…みたいな思考をしていたら、真に怖がれないし、興ざめなのである。


ただ、この映画に関していえば、その食い合わせの悪さが破たんしているというより、特有の「味」になっているといえる。
その理由は、パニックムービー的な側面も、抽象的思考を巡らすストーリーの部分の、きわめてできがよくて、「食い合わせの悪さ」を食い破って両者が無理やり同居しているといえるからだろう。過酷な撮影だったのは、観たらわかる。
あと一つ言えるのは、やはり主演兄さんの存在感だろう。兄さんはいつもどおりの兄さんで、泰然としてどっしり構えているのだが、そのたたずまいは死を恐れないというこの映画の主題に合っている。一説には、監督がもっと若い俳優を望み、ブラッドリー・クーパーに声がかかったという。クーパーでも悪かないが、彼では死への恐怖を克服した人間の凄みは演じきれないか。

いやほんと、ニーソン、もとい兄さんのために用意されてた映画だった。