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85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】ナチュラル・ボーン・キラーズ ★★★★☆

ナチュラル・ボーン・キラーズ ディレクターズカット [Blu-ray]

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殺人に明け暮れるカップルを描いた90年代の『俺たちに明日はない』といった内容。オリバー・ストーン監督で原案はクエンティン・タランティーノ
途中、露悪的なホームコメディのパロディがあったり、アニメーションに切り替わったりで、全体的にMTVの文化に多分に影響されていることが見て取れる。この遊び心はタランティーノのものの気がするけど、監督独自のものだったらそれはそれですごい。『プラトーン』のおっさん、引き出しもってるな。
MTVっぽいというのは悪い影響でもあって、これだけ人を殺してもどこか軽薄になってしまう。殺されそうな人が殺されるという予定調和なのだ。生の予感を鮮やかに裏切るタランティーノ映画の暴力に比べると、やはりそこが物足りない。


俺たちに明日はない』と異なっているのは、「マスコミ」という視点がかなり前に出ていているということ。アイアンスーツを開発する前のロバート・ダウニーJr.の役柄は、そういうものの権化といえる目立ちたがり屋なテレビレポーター。
そうした「マスコミ」描写も含め、この映画にはアメリカの90年代特有の病理みたいなものを感じざるを得ない。、
動機なき「殺人のための殺人」そのものが狂っているんじゃなくて、本当はテンション低いのに楽しそうにやっていることの方に、病理を感じるのだ。たとえるなら、ステロイドでムキムキになった80年代マッチョが、薬物の副作用で鬱病にかかったのが90年代で、さらにそこでから元気をだしているのがこの映画、みたいな。

俺たちに明日はない』との比較でいうと、やはり最後に射殺されるのが彼らでなく「マスコミ」だったというのも独特だ。カート・コバーンはこの時代に自分で自分の頭を吹き飛ばしたが、この映画の主人公2人は自分、もしくは他人にも殺されずに去っていく。殺されないだけに、よけい闇は深い。