いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】フライト ★★★★☆


バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズなどで知られるロバート・ゼメキス監督が約12年ぶりに手がけた実写映画。その間、『ポーラー・エキスプレス』や『ベオウルフ/呪われし勇者』などの3DCG映画を撮っていたわけだが、いやはやこの人にこんな引き出しがあろうとは。


デンゼル・ワシントンの演じるベテランパイロットのウィトカーは、突然制御不能になったジャンボ機を神業的な背面飛行で不時着させる。90名以上の命を救い、メディアによって英雄に祭り上げられかけた彼だが、病院搬送時の採血でアルコール反応がでる。一転彼は、乗客乗員6名の命を奪った犯罪者に仕立て上げられる。

なんといっても、冒頭のすさまじい墜落シーンがこの映画の大きな目玉の一つだろう。どれくらいすごいかというと、ぼくの隣で観ていたやや小太りの男性が、ショックで飲んでいた飲み物を気管に入れてしまったらしく、そのあとしばらく咳き込んでいたのだ。
こちらの記事の動画でわかるが、このシーンがなぜこうもインパクトを残すかというと、出演者らが本当に逆さまになっていたからだろう。

http://news.livedoor.com/article/detail/7454618/


ところで、ネットでこの映画の感想を眺めていると、評価するしないを問わず「観る前の印象と違う」という言葉によく出くわした。これは、おそらく予告が少しミスリード気味だからじゃないかと思う。というのも、冒頭に張った動画の予告から想像すると、無実の主人公が陰謀論にはめられもがき苦しむサスペンスのように思えなくもないのだ。

けれど、実際この映画の核にあるのは、主人公の弱さをめぐる個人的な葛藤なのである。

この映画が教えてくれるのは、人の弱さとは自分が弱いということを認められないこともふくめ弱さなのである、ということだ。

主人公のウィテカーにはアルコール依存症の気があり、それは事故後のストレスでさらに拍車がかかる。けれど、彼はそれを依存とは認めようとしない。
I Choosed To Drink!!――あくまでも自分の意志において酒を飲んでいるのだということに、彼はかたくなに固執する。だから、自分に中毒症状があることを認めて一生懸命治そうとセラピーに通う恋人を、彼は見下してしまう。
けれど、彼女の姿勢をさげすみ、セラピーを馬鹿にすることこそ、彼の弱さなのだ。

この映画が扱っているのは、カント的な意味での「自由」だ。カントにおいての「自由」とは、自分の思うがままに振る舞うことではない。むしろ真逆だ。この映画に即していうと、自分の弱さを認めない自由ではなく、自分から目を背けたくなる恐怖から自由になることである。


デンゼル・ワシントンは、『トレーニングデイ』みたいなダーティな役柄は似合わないと思っていたけれど、こういうやさぐれたワルは似合うなぁと感心しきりだった。ドン・チードルの弁護士も、いかにも小役人という感じがいい。ジョン・グッドマンはいっつもとまるで同じ豪快なキャラだが、今回は映画のやや硬質なノリに小気味よいアクセントとなっている。
また、これから観る人に注目しておいてほしいのは、ウィトカーが入院する病院で出会うジェームズ・バッジ・デールという人が演じるがん患者だ。結局登場はそのワンシーンかぎりなのだが、不思議なくらい印象に残る存在だった。


最後のややご都合主義的な「軟着陸」の仕方もこみで、道徳の教材のような展開に敬遠してしまう人もいるかもしれない。
また、話を整理してみると、彼にもアンラッキーだった側面もなきにしもあらずで、納得できないところもある。100%彼が悪いわけではないのだ。
けれどそれも含めて、主人公は全てを受け入れることによって、この映画のポスターにあるとおり「英雄」なったんじゃないかと思う。