いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

[映画評]エイティーズを「脳筋」とバカにすることなかれ 〜トム・クルーズ『ロック・オブ・エイジズ』 75点〜

80年代末のアメリカを舞台に、夢を追ってハリウッドに来た少女と、同じ夢の途上にいるロック青年、そして史上最大のロックスターとの出会いを描いたロックミュージカル。ブロードウェイで人気を博した同名ロックミュージカルの映画化。

トム・クルーズがミュージカルに初挑戦

なんといってもこの映画、トム・クルーズが伝説のロックスターという役どころで出演し、しかも歌声を披露しているというところが大きな目玉だ。劇中ではこれでもか、これでもかと登場が引っ張られるのだけれど、いざ登場してからはわりと出ずっぱりだった。チラっと映っただけの某アクションコメディ映画とは大違い。
トムクルが長髪で半裸のハードロック歌手?そんな役が似合うのかよ? と観る前は不安だったが、これがドンはまり。というのも、このステイシー・ジャックスという役は超絶ナルシストなんだけれど、それってトム・クルーズの素なんだよね。そういう意味で自己に陶酔してる姿も、いつもやってるからだろうか様になっている。

そしてそのトムクルの歌。普段の声とあまりに違うから吹き替えかなと思ったのだが、こちらのサイトによればどうやらちゃんボイストレーニングを受け、この映画に備えていたよう。まったくもってただの「名義貸し」ではなかった。

シャンクマン監督が「出演契約にサインをした直後から、トムは名ボーカル・コーチのロン・アンダーソンに付いてボイス・トレーニングを始めたんだ。彼の歌を初めて聴いたときのことはまだ覚えているよ。彼には見事な4オクターブの音域があるんだ。(中略)でも、これまで誰も彼に歌を頼んだことがなかったんだ。彼の意外な才能を生かせるなんて、僕はとにかく幸運だったと思うよ」と話すように、初挑戦となるミュージカル映画で披露されたクルーズの歌声は圧巻だ。


NIKKEI「映画・エンタメガイド」

さらに、アレックス・ボールドウィンや、エンドロールで気づいてビックリしたキャサリン・ゼタ=ジョーンズなど、脇を固める役者陣も豪華。
ストーリー的には、あのウホ展開はなんだったんだとか(全編ヘテロセクシズム全開だったので、そうしたものへのエクスキューズ的な側面があったのではと推察するが、ま、どちらにせよ唐突だわな)、結論的にだれもなにも達成してないんじゃないか? という疑問が浮かぶのだが、それもミュージカルであるという部分がカバーしているのかもしれない。

ミュージカル映画に苦手だけど、利点も見つけた

ここ最近、『レ・ミゼラブル』にこの『ロック・オブ・エイジス』と、個人的にミュージカル映画の鑑賞が多かった。
タモリがミュージカルを嫌っているのは有名な話だ。実はぼくも、それとほとんど同じ理由で、今まで少し敬遠していた節がある。正直なところ、未だにミュージカル映画は、とくに観はじめたあたりで、日常会話をしてた奴がいきなり歌いだし、しかもそれを周りの人間が気にも留めなかったり、ましてや一緒に歌いだすみたいな展開には、「キツ!」と感じるときがある。
けれど、それと同時に、ミュージカル映画の構成上の利点というものにも気づいた。それは、音楽によって話が進行することで、ストーリーのリアリティや、つじつまの合わなさに、ある程度目がつぶれるということだ。音楽の勢いで話の展開を乗り切ってしまえる。

80'sを「脳筋」だとあなどることなかれ

そう、この映画はなんといっても音楽だ。トム・クルーズと同等に、もしくはそれ以上に、この映画で主役をはっているのはまちがいなく80'sのハードロックの名曲たち。収録曲はこちら

ぼく自身も80年代生まれだけれど、洋邦を問わず音楽は90年代にシンパシーがある。80年代ロックというと、70年代のパンクのようなとんがった反体制のイメージはない。すでにスタジアムツアーが普及し、大衆化された"産業ロック"だ。一方、鬱屈とした90年代の憂いもない。どちらかというと大味で、脳みそまで筋肉のバカ騒ぎというイメージがある。
けれど、そうやって80'sを侮っていていいのだろうかと、考えさせられるきっかけがあった。
それは、ミッキー・ロークを見事復活された『レスラー』を観たときだ。

劇中、彼がバーで女と話すシーンで80'sを聴きながら「80年代は最高!」「でもニルヴァーナが出てきて楽しさがぶちこわし」「90年代は最悪」という印象的な会話をしていた。これを観て、ああ、アメリカにはそういう見解があるのかと思ったものだ。

80年代ロックには、反体制を叫ぶ70年代にも、メンヘラがかった90年代にもない力がある。デッカイ希望が信じられた最後の時代ならではのエネルギーが詰まっている。劇中で歌われる楽曲のほとんどは、正直言えば「聴いたことはあるが名前は知らない」というものだった。それでも聴いたらわかる。80'sには80'sならではの、みなぎるような力があるのだ。


80年代を懐かしむオッサンホイホイであるのは間違いないけど、非オッサン世代でも元気がない人につい勧めたくなるような映画だ。