いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

山内マリコ『ここは退屈迎えに来て』★★★★★★★☆☆☆

先月のUSTでとり上げた本だけれどあらためて。

内容(「BOOK」データベースより)
地方都市に生まれた女の子たちが、ため息と希望を落とした8つの物語。フレッシュな感性と技が冴えわたるデビュー作は、「R‐18文学賞」読者賞受賞作「十六歳はセックスの齢」を含む連作小説集。


ぼくの持っている版では、帯で山本文緒が「ありそうでなかった、まったく新しい"地方ガール"小説です。」というコメントを寄せてるが、この「ありそうでなかった」という表現は凄く端的にこの小説を言い表している。

 取材を終えた車はブレーキランプを一斉に赤く光らせ、道の両サイドにはライトアップされたチェーン店の、巨大看板が延々と連なる。ブックオフハードオフ、モードオフ、TSUTAYAとワンセットになった書店、東京靴流通センター洋服の青山紳士服はるやまユニクロしまむら西松屋スタジオアリス、ゲオ、ダイソーニトリコメリ、コジマ、ココス、ガスト、ビッグボーイドン・キホーテマクドナルド、スターバックスマックスバリュ、パチンコ屋、スーパー銭湯アピタ、そしてジャスコ
 こういう景色を"ファスト風土"と呼ぶのだと、須賀さんが教えてくれた。

p.8

ここらへん、脳裏にブワァっと情景が広がってヤバいのだが、最後の一行に注目してほしい。本作は「ファスト風土」という現実に起きた現象に自覚的なのだ。

評論家の三浦展が導入した概念。地方の郊外化の波によって日本の風景が均一化し、地域の独自性が失われていくことを、その象徴であるファストフードにたとえてファスト風土と呼んだ
ファスト風土化 - Wikipedia

三浦氏の議論は印象論のきらいがあり、批判にさらされた面もあるが、彼の議論を叩き台にして郊外論が2000年代にちょっとしたブームになったことは否めない。そして本作はおそらく、こうした郊外論ブームに、初めて創作という方向から来た応答、創作という形を取った批評といえるのではないか。

放送では、僭越ながらこの小説は面白いが、「賞味期限」が思いのほか短いのではないか、と言った。
というのも、本作はこうした現実の問題をテーマにしている以上、実在する固有名が次々と飛び出してくる。その固有名の使い方がとにかく絶妙で、この小説の魅力の一つだ。そして、その固有名のかもしだす盤石な「同時代性」の上に乗っかっていることも否めない。つまり、この本を"今だからこそ"面白いんじゃないかと思ったのだ。だから「面白い本だけどなるべく早く読んで!」と紹介した。

けれど、今日これを書くにあたってもう一度読み返していると、この本がただ単に「今だから」こそウケているわけでもない、ある種の"普遍"を含んでいるんじゃないか。
本作の主人公たちの多くは、都会が中心に対して自分たちが辺境であるということに自覚的だ。辺境文学といえば、いわゆるポストコロニアリズムだとか、植民地支配だとか、重苦しいものを考えがちだ。
本作『ここは退屈迎えに来て』は、そのような「辺境文学」を、(内容は辛辣だが)装いをライトでポップにして、舞台を現代日本へとブラッシュアップした作品ととらえることが可能なんじゃないだろうか。
つまりこの小説には、共感の方向で感じる面白さもあれば、もう少し普遍的な、中心から取り残された者の悲哀が描かれているといえる。

ただ、そうはいっても、読めば読むほど本作は女性読者ほど「来る」ものがあるんじゃないかということに、改めて気づかされた。そういう意味で、関東出身だったり上京してきて何となく居場所を見つけたりしているヤロウ三人で語るのには、なんとも不向きな作品だったといえるのかもしれない(笑)

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そんなわけで告知です。
前回『ここは退屈迎えに来て』をとりあげた「いいんちょと愉快な鼎談」のUST第8弾を、明日12月21日(金)の 20時からやります(アーカイブでも見れます)。
今回とり上げる作品は三上延ビブリア古書堂の事件手帖です。はい、ブームに便乗ですねわかります。
今回は年末特番として、いつもの「スタジオ」を飛び出し、Ustreamスタジオ渋谷からの放送です!!!
サンタさんが来るとか来ないとか?

ご期待くださいませませ。

http://www.ustream.tv/channel/atsushi-s-broadcasting