いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

グラビアアイドル界の『プロジェクトX』〜『グラビアアイドル「幻想」論』書評〜★★★★★★★☆☆☆

グラビアアイドル「幻想」論 その栄光と衰退の歴史 (双葉新書)

グラビアアイドル「幻想」論 その栄光と衰退の歴史 (双葉新書)

本書は長年シーンを追いかけてきた著者が、グラビアアイドル界の栄枯盛衰をまとめた一冊。指摘するまでもないが、この著者は例のアーミージャケットのラブサムバディトゥナイ男とは別人だ。こっちは「おりた」さん。

ぼくの持つ版の帯には「グラビアアイドルはなぜAKB48に負けたのか?」という文字が躍っている。しかし読み終えてみると、本書の核となっているのは「WHY?」ではなく、「HOW?」という問いだ。本書がその大半を割いて論じるのは、グラビアアイドルというシーンが誕生し、最盛期を迎え、徐々に衰退していくという一連のプロセスなのだ。


世相を騒がしたアグネス・ラムも実は3回しか来日していなかったことなど、いろいろトリビアルな知識があって楽しい。しかし今の時代、それらはウィキペディアで簡単に収集できるだろう。本書は、書籍・雑誌などの豊富な資料と、著者本人の記憶・記録などを総合して、「ウィキ以上」の内容に仕上げている。


おそらく読んだ誰もが納得するはずなのは、本書のテーマがグラビア史であると同時に、元イエローキャブで現サンズ社長、野田義治の物語でもあるということだろう。

"脱がせて、だんだん着せていく"

この一文に彼のグラドルマネジメントの極意が詰まっている。肌の露出を多くして注目を集めつつ、服を着てからも飽きられない話芸などを磨き、テレビでの活躍を目指す――グラビアは目標ではなくあくまでもプロセスなのだ。雛形あきこ小池栄子MEGUMI…あげていけばきりがないが、そうした彼によって放たれた彼女らが、今も芸能界で生き残っていることが、その方法の確かさをしめす何よりもの証拠だろう(特に小池は、バラエティでの立ち回りをあの紳助にさえ絶賛された)。まったく関係ない、いや、むしろ商売敵であるはずの大手ホリプロの優香の成功を横目で見ながら彼が「勝った」と思ったという箇所は、本書をそこまで読んでいる者からすれば、ちょっとした感動がある。NHKプロジェクトXで野田さんの回がもしあったら、ぜったいここで中島みゆきのエンディングが流れていたことだろう。


ジャンルとして確立された90年代〜00年代を論じる中盤あたりからは、当時名をはせたグラドルたちがどのようにブレークしたか、個別に辿れるような作りになっている。ぼくの世代的なもので、どんどん記憶にある固有名が飛び出してきて、懐かしい気持ちに浸れた。特に「BIKINI」の番組タイトルを目にしたときには、中学のころに親に隠れて観ていたことを思い出しちょっとしたノスタルジーを味わってしまった。

そのジャンルにあるタブーが徐々に取り払われていき、結果的にジャンル全体が地盤沈下していくという現象はどの世界にもよくあることだ。本書を読むと、最終的にグラビアアイドル界も年齢のタブー(昔は20代前半がデビューのギリギリだった)や掲載雑誌のタブー(ヌードグラビアのある雑誌はNGという事務所が昔はあったらしい)などさまざまなタブーの侵犯を繰り返しながら、力を失っていったんじゃないかという印象を受ける。

物足りないとすれば、写真の撮り方や、ページの構成なども、この20数年で変わっていたはずで、そのことにはほとんど触れられていない。グラビアアイドルをあつかってはいるが、本書はあくまでメディア論であり、写真論ではない。ただ、こういう新書にありがちな「陳腐な社会反映論」(90年代は不況だったからこれが流行って〜的なアレ)に逃げなかったところは、評価したい。

おおむね良書であるが、ただ一点、評者であるぼくがどうしても許すことができないことがある。それは、ぼくが認める現グラドル界のトップ2(知らんがな)であるはずの篠崎愛吉木りさにまったく触れられていないことだ。約1年半前の著作であるが、その当時でもおそらく二人を取り上げて十分よかったはずだ。そのことだけで0点にしようとしたところ、さすがにそれは大人げないとわれに返り、この点数。著者にはぜひとも、この二人について論じた増補版を著していただきたいところだ。