いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

キミは「仕方なく観た映画」が予想外にめちゃくちゃ面白かった経験があるか?〜『アイアン・スカイ』95点〜

新宿武蔵野館で鑑賞。

本当は評判のいい西川美和の『夢売るふたり』か、ジェレミー・レナーきゅんの新作『ボーン・レガシー』が目当てだったんだけど、電車の中で上映スケジュールをしらみつぶしに探しても都合のつく時間帯がなく、映画の日だし引くに引けなくなって申し訳ないが“泣く泣く”といっていいほどのテンションで観始めたのがこの映画。
結果的に大当たりだったのだから、これ幸いである。

「ナ、ナチスのエロい制服のお姉ちゃんが出てくる話でしょ?」というバナー広告から得た予備知識くらいで、ほとんど丸腰で乗り込んだが、いやぁこれが大満足の約90分だった。

舞台となるのは2018年、ダークサイド オブ ムーン――つまり地球からは見えない月の裏側にナチスの残党が「第4帝国」を作り上げていたという設定だ(ネットで調べてみると、ナチスの作った宇宙船という「都市伝説」は昔からあったみたいだが)。彼らはまだ「戦時下」だと思い込んでいて、月に着陸したアメリカの宇宙飛行士をスパイだと勘違いして捕獲するところからストーリーは始まる。
前半は、この時代錯誤なナチス(だって70年以上も月に引きこもってたんですもん)の生み出すカルチャーギャップが主な笑いの燃料だ。PC的にアウトだろ!という(サウスパーク的な)危ないギャグも、「ナチスだもんしかたない」で笑えるから不思議。


ただこのまま、終始「ナチネタ」だけなら場が持たないんじゃないかと観ながら危ぶんでいたが、そんなことはなかった。この作品は、今の見地から"ナチスだけ"をバカにしてそれに対比する形で現代文明(というかアメリカ)を賛美する、みたいなおめでたい映画ではまったくない。ナチスをバカにしながら、同時にアメリカをはじめとする「今」の国際社会さえ、笑いの標的にするのだ!「ナチスってバカだな」じゃなくて「俺達ってみんなバカだな!」なのだ。


舞台を地球に移した後半は、前半に輪をかける勢いでギャグの連発だ。とくに「戦争」が始まってからは、文字どおり新宿武蔵野館が「揺れた」と表現したくなるくらい、爆笑に次ぐ爆笑の連続だった。ここらへん、「ヘタリア」的な感性の持ち主ならきっと満足できるだろう。


どこかのレビューサイトに好意的ながらこの映画を安易に「おバカ映画」と表現していた人がいるが、ちがうね。そうじゃない。
この映画はきわめてバカバカしい装いをしていながらも、今の国際社会にユーモアで痛烈な「爆撃」を加えているのである。キャプションを読むと、フィンランドとドイツ、オーストリアの合作になっていて、肝心の“あの国”が入っていない。そりゃそうだ、自分たちで戦争吹っかけてながら「イラクの場所がわからない」人が何割もいるおバカな国からこんな映画が出てくるわけがない。ドイツも『わが闘争』が長い間出版禁止になっていたが、こんな映画が作れるようになったのかと思うと、感慨深い。


バカに受ける映画とインテリに受ける映画には、本来へだたりがある。
しかしこの映画は、わかりやすいストーリーと頭のおかしい設定とド迫力の3DCGでバカを満足させながら、同時に歴史ネタ、国際政治ネタを武器にインテリの腹筋を崩壊させる快作だ。
予備知識として、「ナチスがどんな組織で何をしていたのか?」ということぐらいは最低限知っておいてもいいかもしれないし、他にもアメリカの歴史や最近の政治状況、国際政治に詳しかったらなおの笑える箇所も増えるだろう。しかし、そうしたものに疎くても十分に楽しめる。
中盤にやや拙速な展開が気になることは気になるが、そのあとで得られるものを考えれば取るに足らないことだろう。


この映画でクスリとも笑えない人はいないだろうが、もしいるとしたら。
その人はナチスの残党かなにかなのだろう。